神は細部に宿るが細部なので気付かれない
「見せつけてくれるなぁ! もう!」
シオミンが妹の頭を撫でた俺を指さす。声は煽るように、聴衆に聞かせるように、意志を代弁するように、大きくはっきりしたものだった。
これがプロの技である。気にしてなければ聞き流してしまう程度の洗練された気遣い。愚妹のような感性で生きている者では気付けないものである。げんに今もワハハとアホ面を晒して笑っていた。
妹を擁護するならば、バカを演じて場を盛り上げるのも大切なことである。楽しげにしてれば見てる方も雰囲気楽しげになる。ギスギスした配信もまた味わい深いが、なんだかんだ甘い味付けの方が大衆向けである。
「さて挨拶も済んだしーレクリエーションの時間だぁ!」
妹が声を腕を突き上げる。シオミンがそれに合わせて「だー!」と腕を上げる。妹とシオミンから目配せされ、おっかなびっくり気味に俺も腕を突き上げた。二人がそれを見届けると柔らかい笑みを浮かべる。
「さて今日はこの三人でゲームやっていきます!」
妹は一人で宣言し、一人でイエイイエイと馬鹿みたいにはしゃいだ。テンションぶち上げであった。
「今日やるゲームはこの間サービス開始したばかりのブルースフィアだぁ!」
昨日やっていたゲームの名前が飛び出した。これはまずいと思うも、止める暇もなく妹は説明を続けていく。
「いわゆるMMOって部類のゲームなんだけど、これを三人でパーティ組んで進めていくよ。私とシオミンはアカウント取ってもらってパーティ組めるとこまで進めたからあとはにーちゃんがアカウント作ればいいだけ。もちろんアバターはこれをコンバートしてもらうからね!」
念を押された俺は頭を抱えたくなる。
妹とシオミンのコラボのために予習していた。もうアカウントも作っており、武器種解放まで進んでしまっている。今現在配信している内容の中盤ぐらいまで進んでいるのだ。どう考えても一緒に遊べる状況ではない。一緒に遊んだら俺一人だけ無双になってしまう。そうなってしまえばシオミンの顔を潰してしまうことになる。それだけは避けなければならない。妹の顔も潰し、リスナーからもブーイングが出るだろうが、そこら辺はどうだっていい。シオミンの顔を潰さないことが重要なのである。
「それじゃにーちゃん準備してー」
妹が急かす。
下手に言い訳してやらないのも不自然であり、俺は正直にこのゲームをプレイしていたことを白状した。
妹はうげぇと苦虫を潰したようにしかめ面になる。
「ゴールデンウィークなのにどこにも行かず、昼間っからなんかやってるなぁと思ってたらまさかこのゲームをやっているとは。昔から他人のゲームプレイを見ることはあっても自ら望んですることはなかったから安心してたのに……やられたー!」
「正直すまなかった。まさかお披露目会でプレイするとは思わなかったからつい予習してしまった」
二人してこの空気をどうするかなと頭を回転させていると、女神の神託が降りた。
「どうせなら配信用に新しいアカウント取っちゃえば良くない?」
ゲームに疎い俺ら二人はその手があったかとはしゃぐ。さすが大手配信者は咄嗟のトラブル対応が上手いとシオミンを煽てる。
女神は照れながら「いやーそれほどでも」と手を横に振る。
謙遜しながら「すぐに思いついたのは理由があってね……」と前置きをする。
「実は汐見もね、プライベートアカウントで遊んじゃっててー配信用にアカウント取り直したんだよね。いやはや、お兄さんがカミングアウトしてくれたおかげで言いやすくなったよ」
ちょこっと舌を出して謝る仕草をする。
その女神の如き可愛らしさを内包した茶目っ気に隠された俺一人を悪者にしないヘイトコントロール。まさに神業であった。




