ふ、おもしれー女
遺跡の中は巨大な研究所であった。長方形の形で四隅に下へ通じる階段があるのだが、ご丁寧に一階ごとに階段が瓦礫で埋もれていたり、巨大な木で塞がり、別の階段を見つける必要がある。
その探索中に敵に見つかって戦闘になり、深手を負いながら倒したり、命からがら逃げ出したり、逃げた先に階段を見つけて下ったりした。
今は地下三階。
もはや回復アイテムも切れ、諦めることを視野に入れる段階に入った。
「レベル低いのはどうにもならないな」
「二人いればなんとかなると思ったけど無理じゃん」
「このまま帰るか?」
「冗談でしょ」
「だよな」
学はないのに意地だけはある二人が新たに生み出したのは、片方を囮にして片方が警備ロボットを撃破する作戦だ。小学生でももう少し頭を捻るだろう。
詳細はこうだ。
じゃんけんで巻けた方が一匹釣り上げ、所定の位置までどうにかこうにか逃げおおせ、あとは二人でボッコボコにする。その後、囮役をじゃんけんでもう一度決めて、再チャレンジ。これを敵がいなくなるか、片方がくたばるまで続ける。非常に頭の悪い作戦となっている。特にじゃんけんで決めるあたりが頭が悪い。
最初にじゃんけんに負けたのは俺だった。
負けた瞬間、ブランド女の「ざーこ!」がひどく腹が立った。
囮としての仕事は予想以上に命懸けであった。
道を先行し、警備ロボットを見つける。警備ロボットはドラム缶にタイヤがついたよう形状である。それは舗装された道では早いが、障害物がある道では遅くなる。ゆえに瓦礫がある道を走ればリードを保ちながら逃げることができる。
その理論は正しかったが、俺自身の走力を考慮していなかった。
俺はインドア派の人間であり、足場が悪いところの走り方など知らなかった。釣った矢先で転び、危うくハチの巣になるところだった。
何度か傷を負い、囮を真っ当することができた。
「転んだのマジ笑ったわぁー」
警備ロボットを倒したら、ブランド女は腹抱えて笑いやがった。
じゃんけんの結果、囮交代。
「私の華麗な走りを見せてあげるから参考にしなさい」
ドヤ顔で釣りに向かったブランド女は俺と同じように転んで、何度か傷を負いながら帰ってきた。
「おやおやどこを参考にすればいいんですかねぇ!」
「はぁ〜! この野郎は気遣いってもん知らないんですかねぇ! モテない男は困りますね!」
「気遣って欲しいのなら少しは女性らしくしたらどうなんだ」
「女性らしくとか時代錯誤やめてもらっていい!」
交互に罵り合い、煽り合い、互いに「こいつより先にくたばってたまるか」と心を一つにする。
世界で最も不毛な信頼関係であった。
体が警備ロボットに傷つけられ、心は互いに貶し合い、体も心も満身創痍。そして、最深部に辿り着く。
地下五階の研究室。ガラス張りの壁は砕け散り、ツタで覆われ、元の姿の影すら残していなかった。その中心でわざとらしく存在感を放つ花があった。白く密集して咲くそれはここでアイテムが取れると主張しているようであった。
俺とブランド女、二人して花の朝露に触れる。
すると朝露がアイテムとして自動的にインベントリに収納される。
「あーやっと終わった!」
任務達成し、気が緩んだブランド女はその場に座り込む。
「これでこのパーティも解散だな」
「あー清々する!」
天を突き上げるように両手を伸ばして伸びるブランド女。
「ま、なんだかんだ楽しめたよ。こういう感じで遊ぶのあんまりなかったから」
「へー普段はもっと大人しいんだな」
「そうそう普段はもっと清楚で通してる」
「なら俺の前でも取り繕えよ」
「懇ろになるわけでもない男に気を使っても意味ないからなー」
「俺もお前は御免だけどな」
二人して「お、やるか?」と喧嘩腰になったところ、ブランドの女がリアルで何かしらの連絡を受けたようで始まらなかった。
ブランド女が何かを申請して寄越す。
「それ、友達申請だからよろしくね。なんだかんだ楽しかったよ」
そう言ってブランド女はログアウトしていった。
俺は申請に承認で返した。
ブランド女。頭のおかしい女であったが、面白い女であった。




