度を超えたファンとアンチは見分けがつかない
アンジェラは狼狽える。
他の誰かがアンジェラを模倣したのか、それともアンジェラ自身が記憶ないままに行動したのか。それとも他の要因か。なんにせよアンジェラが把握していない何かが起きていることは確かであった。
「前に妹を殺したのはアンジェラじゃないって言ってたよな?」
アンジェラは俺の声に反応すると、平静に努めて返してきた。
「ええ、そうよ。殺していないわ。だって殺す理由がないもの。殺さない理由はあるけど」
「殺さない理由を教えてくれないか?」
「簡単よ。ただの人間があの状態になるってことは何かに見初められた状態なの。私がそれをやるってことは単に競合相手を増やすだけで損しかないのよ」
たしかにアンジェラには神になるための争う相手を増やす理由がない。
「もし夢遊病みたいにアンジェラ自身が寝てる間に行動したとかは考えられないな?」
「ないわ。だって睡眠は肉体が必要とするもの。受肉している状態でもなければ寝る必要すらないわ」
「なら誰かがアンジェラを模倣したのか。誰か心当たりあったりするか?」
アンジェラは顎に手を当てる。気まずそうで、返答したくなさそうな感情を混ぜ込んだ顔をする。
「……わからないわ。友達いないから。わざわざあたしの真似をする人がいるなんて考えられないわ」
「ファンとかか?」
「あたしにファンがいたなら一人でゲームやってないわ。……もしかするとお兄さんみたいにアンチの方かもしれないわね」
「あながちあり得そうなのが怖いな」
友達がいない二人して悩むものの答えは出ない。ボッチな二人ゆえ容疑者の特定どころか容疑者のリストアップすらままならない。当然の帰結である。しかし、このまま悩んでいても埒があかないと思い、ひとまずゲームを楽しむことに決めた。
その日はアンジェラゲーム部長の指導のもと、ストーリー進めとレベル上げを頑張ることになる。最初のうちはレベル上げをせずともストーリーに沿っていれば適正レベルで楽しむことができていたのだが、途中からレベル上げや武器種開放などのサブイベントを進めなければキツくなっていった。正直、俺みたいなタイプには面倒でたまらない。アンジェラが言うには、まだサービス開始して間もないため、やることがすぐになくならないよう引き伸ばして、プレイ時間確保しているのだという。コンテンツがふえれば緩和されるというが、まだまだ先の話だという。
ゲームシステムや自分と敵の強さが理解できたことで、一つ進展があった。自分が無茶をしようとしていたことに気付くことができた。俺が登ろうとしていた山は配信しているコンテンツの中ではエンドコンテンツに含まれる内容であり、始めたばかりのプレイヤーは追い返されるのが関の山らしい。初期レベル登頂チャレンジという縛りプレイが配信者の間で流行るぐらいの難易度とのことだ。件のストレスゲーを強制終了させられた妹がこっちに興味を持ちそうな予感がしてしまう。知ったら絶対にやるだろうという確信がある。「こっちは禁止されてないから!」などと言って手を付けるに決まっている。
想像の中の妹を叱りつけるところまでいきかけたところで、頭を振るって頭の中から追い出す。
ともかく登山するため今後もレベル上げが必要そうであった。アンジェラもいつも暇なわけではないので効率の悪いソロプレイでレベルを上げることになるだろう。
山に登るのはまだまだ先になりそうだった。




