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面倒な人を集めがちな人

 この偽物は「なるほど私は記憶喪失だったのか」などと呑気なことをのたまう。


 それが度し難かった。


「妹の死因は不明だ。そんなオカルトに巻き込むな」


「お前の気持ちはわかる。ただ、オレの幼馴染もこれに巻き込まれて、ほぼすべての記憶を奪われたから、ようやく手掛かりが得られそうで引けないんだ」


 初めて聞く事実だった。


 桜庭の幼馴染も被害に遭っていた。おそらく妹が死んだのと同時期の話だろう。その時期は顔を合わせることが少なかったから、そのことに気付くタイミングはなかった。


「……俺は認めない。ただ、お前がどうしようと知ったことじゃない。それでいいか?」


 その妥協案に桜庭はフッと笑みを浮かべる。


 お高いアバターのソレは鼻につく程度にはイケメンだった。


「ああ! それで構わない。舞香さん、悪いがエネミーを追うのを手伝ってくれないか?」


 その誰もが頷きそうな甘いマスクなアバターの誘いに偽物は「え、嫌だけど」とぶった切った。そのイケてるフェイスが驚き崩れる様は、見ていて愉快愉悦ゆえ偽物がやった行為だとしても賞賛を送りたくなってしまう。


「待て待て待て。理由を聞かせてくれないか?」


 断られるとは思っていなかったのかその動揺ぶりはまるで彼女に縋るヒモ男のようだった。


「え、だってにーちゃん一緒じゃないから」


 ここで改めて俺を巻き込んでくる。俺のストーカーと考えれば俺を巻き込むことは論理的に納得はいくが、法的に問題のある論理は非常に不愉快であった。感情優先なところばかりは妹とよく似た行動原理でそれがまた癪に障る。


「私、知ってる人にーちゃんしかいないから一緒じゃなきゃやだ」


 都合よく記憶喪失だと口にした。


 桜庭はそれを真に受けて「どこまで覚えてる?」とか訊いていた。


「どこまでとか覚えてないからわっかんないし」


「そりゃそうか……」


「私が知ってるのは、知人以上の交友関係はにーちゃんしか知らないってことだけ」


 こうした桜庭と偽物の問答によって、偽物の設定が披露されていく。


 家族関係も友人関係も全て忘れ、俺のことだけ記憶にある。だから兄と二人きりの家族で自分はボッチだと勘違いしていたらしい。社会常識などはおそらく大体は覚えている。けど元々馬鹿だからあまり期待しないで欲しいとのこと。ログアウトもできず、ずっと一人で色んな電脳を巡っている。メールが無視された時は一日中切れ散らかしたらしい。


 こうした偽物に都合の良い設定に、辟易していたら「信じてないな~」と偽物に頬を指でぐりぐりされた。


「桜庭、俺はもう行っていいか? コイツとは関わりたくない」


「言っとくけど、にーちゃんいないならマジで協力しないかんね」


 桜庭が懇願するような眼で俺を見てくる。


 長毛種な犬がずぶ濡れで懇願するような眼で見てくる。


 可愛さの欠片もないただひたすらに哀れな目で見てくる。


「貸し一つな」


 ここで折れてしまうのは俺の悪い癖だ。


「いやーやっぱ総司は優しいわ!」


 毎回折れて妹をよく調子づかせていた。

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