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叙任式

 エネミーの少女と手を組む。


 そう決めたもののどこに行けば会えるのか、それを決めていなかったことに今更ながら気付く。あの少女はいつも決まって夜遅くに現れていた。ならば夜出歩けば会えるだろうという安直な考えのもと、安アパートから飛び出した。


 春先と言っても夜は冷え込むため、薄手のジャケットを羽織ったのだが今日は殊更冷え込み、早々に後悔した。持ってきていた携帯で外の気温を調べるとやはりいつも以上に冷え込んでいた。


 そこら辺を一周していなかったら帰ろう。


 そう決めて歩く。


 今頃、妹はストレスが増えるだけの超高難度ゲームの配信でもしている頃だろう。操作性も悪ければ、一つのミスで積み上げてきたものをすべて失い最初からを強制されるゲームだ。セーブなんて優しい機能はついていない。そんなゲームで今日もまた絶叫をあげて、切れ散らかしている頃だろう。


 先日、少女と北御門が対峙した公園の近くを覗く。


 滑り台とブランコがあるだけの小さな公園の中、弱々しい街灯に照らされた一人の少女が佇んでいた。


「あら、奇遇ね」


 少女は俺に気付くと艶やか笑みを送ってくる。


「子供はもう家に帰る時間だぞ」


「では家まで送ってくださる? もっとも帰る家なんてありませんけど」


 少女がブランコにいざない、先に腰掛ける。


 俺もその隣に座る。


「それでは先日の返事を聞かせてくださるかしら?」


「その前に一つ聞かせてくれ。手を組んだら妹に手を出さないと約束できるか?」


「ふふ、妹さんが大事なのね。いいわ、あたしの邪魔をしなければ手を出さないであげる」


「なら俺からはなんの問題もない。手を組もう」


 握手するために手を差し出す。


「あら、この手は駄目よ。あたしの好みの形じゃないわ」


 少女はブランコから降り、俺に片膝をつくように指導される。


「あたしの騎士。あたしに名をつけてくれないかしら」


 名付けとはその力を縛り、方向性を定めるもの。


 ならば少女が神に少しでも近づけるものを決めておきたい。


 義憤、鬱憤、怨嗟。これらが痛いほど分かるといった。


 彼女は俺を自愛的で自虐的だと理解した。


 怒りの言葉、自愛的で自虐的な言葉、それらが彼女の名に相応しい。


「――アンジェラ。それが君の名前だ」


 少女は微笑を浮かべる。


「由来を聞かせて?」


「怒りの言葉、アングリー。自愛的で自虐的な言葉、ジェラシー。それらを掛け合わせた言葉だ。七つの大罪のうち、二つを取り、俺らの繋がりを示した」


「素敵な名前。とても気に入ったわ」


 アンジェラは跪く俺の両肩それぞれに手を優しく触れる。


「貴方をあたしの――アンジェラの騎士に命じます」


 こうして叙任式は終わった。


 アンジェラの騎士となったらしいが、何一つ変化はなかった。


 アンジェラが言うにはアンジェラ自身が神に至ることで神使としての役目ができるのだが、それ以前ではあまり意味のない役職らしい。言ってしまえばこの行為は青田買いに近しいものとのことだ。唾をつけたのだから手を出すなよ、という牽制だとも言った。


 誰に対するものなのだと尋ねると「あたしの邪魔をする存在たちよ」と答えた。


 それを深掘りしようとしたら「ここでドジっ子な騎士さんに一つ豆知識を披露させて」と遮られる。


「七つの大罪での嫉妬の英訳はジェラシーではなく、エンヴィよ。ジェラシーは自分の望むものが第三者に奪われた時に感じる憎悪。対してエンヴィは望ましい相手を見てそうなりたいという思いね」


「すまない。知識不足だった。名付けをやり直した方がいいか?」


「いいえ、それには及ばないわ。エンヴィではなくジェラシーだったところが特に気に入ったのだもの」


 くすくすとおかしそうに口元を押さえるアンジェラ。


 彼女の仕草はとても可愛らしい。


 弱い街灯に照らされるその姿は、月光を浴びる本物のお姫様のようであった。

短いですが、これにて3章は完結です。

4章も楽しみにしていてください。


もしここまで読んで面白かったと思いましたら、ブックマーク・評価、感想やレビューをよろしくお願いいたします。

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