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昨日の友は今日の敵

「偉くなって何かできることがあるのですか?」


 仮にも神様になるのだ。権威とか目に見えない何かがあるのだろう。そうでもなければ偉くなって責任も増えるけど給料は増えないみたいな罰ゲーム人事のようなものに進んでなりたがるものはいないだろう。いるとするならば理想主義者か生粋のマゾヒストだけだ。


「いんや、ない!」


 これは何か目的があるかマゾヒストだと考えた方がいいのだろうか。


「せやけど、精霊だった彼女の噂聞くところによると、精霊らしくなく真面目で堅物だったみたいやから上昇志向はあったはずや。そもそも次の神になりたいってウチに自薦してきたぐらいやからな」


「……ちょっと待ってください。あの少女と以前から交友があったのですか?」


「交友っつーほどのもんでもないけどな。たまに業務連絡もらう程度の関係や」


「神様の組織がどうなってるのか知りませんが、少女をそのまま神にしてあげれば今回のこと起きなかったのではありませんか?」


「せやな。てかそこが謎やねん。ウチもやる気ある奴が神になるもんやと思ってたら、なんの関係もない嬢ちゃんも候補になったって聞いて驚いたわ。それにさっきの説明では省いたけど、人が神になるにはそもそも広く純粋に信仰の対象になるか、別の神様かそれに準ずる何かに見初められなアカンねん。一般人だった嬢ちゃんが候補になること自体が異例やわ」


 妹はネットアイドルをやっていたが、俺らとコラボする以前は俺の耳にも届かない程度の認知度、ぶっちゃけ地下アイドル未満だ。そんなものが神になれるのなら、世の中神様だらけだ。もっともネットの世界は気軽に神呼びされる人は多いのだが。俺でさえ今や量産型アバターの神みたいな扱いをされてしまっている。


 だとすると見初められたというわけになるが、超常的存在のツテはエネミーの少女か樹神さんしかいない。その樹神さんも知らなそうなので少女に聞く他なさそうだ。


「聞きたいことは以上でええか?」


 出されたお茶を口に含む樹神さん。


「そういえば大したことはないんだがあの少女に名前はないのですか? 以前助けてもらった際に名付けしてくれと言われたのですが」


 そのお茶は喉元を通ることなく俺の顔面に吹きかけられることになった。プロレスの毒霧のように、それはもう器用に霧状にして吹き出したものである。おかげさまで顔面余すことなく涎が混ざった水滴が付着することになった。


 咽返る樹神さん。北御門がハンカチを俺に手渡し、樹神さんの背中を擦る。そのハンカチはえらく肌触りが良かった。


「いやーごめんなぁ。マジで驚いてしもて」


「名付けがですか?」


「せやな。名付けは神や精霊、妖怪みたいなもんにとっては大事な行為なんや」


 隣の北御門もそれは知らなかったらしく、へぇと関心を寄せる。


「僕も知らないことなので詳しく教えて頂いてもよろしいですか?」


「あー言う機会なかったもんな。ま、言うて難しいことやあらへん。名付けってのは己の在り方を縛り、力の方向性を定める行為のことや。自分で付けても、人から決めても、どちらでもええんやけど自分の名前だって認識することが大事なんや。同性なら親友の証みたいなもんやけど、異性に頼むのはもはや愛の告白みたいなもんやで」


 この世に生を受けて此の方十九年。


 どうやら気付かないうちに生まれて初めての告白をされていたらしい。


「いやーそんなことしてたとは。そりゃ口説き落とそうとしてるとこ邪魔されたらキレるわな」


 豪快に笑われた。


「まさかあの子がそないなことするなんて思いもよらんかったわ。初恋に振り回される気分はどうよ、色男さん?」


「恋愛弱者の俺には手心を加えて欲しい気分ですね」


「ウブな恋ってのを楽しんでみるのも存外ええもんやで」


 神様でも女性なので恋バナが好きなのだろう。今までよりも目を輝かせて、前のめり気味に会話を打ち返されていた。


「……樹神さんは妹と少女のどちらに神様になって欲しいのですか?」


 樹神さんは肩をすくめる。


「試してる訳でもないから素直に聞いてな。ウチは本当にどっちが神になってもかまへんのよ。どちらが神になっても、悪させん限り、その後にやることは変わらへんしな。だから中立の立場やね。ただ、犠牲は少なくしたいから動きはするし、今回の騒動の鍵になりそうな君は多くを知って判断してもらいたいからこうやって伝える場を設けたんや」


 俺の思惑などお見通しなのだろう。その上で犠牲を少なくしたいという向こうの要望も聞けた。ここでの犠牲者とは命を落とすもののことを指すのだろう。記憶の簒奪者となっている少女は工藤さんのような最初の犠牲者を除けば大した記憶は失っていない。これは樹神さんにとっては許容できる範囲だと考えられた。そうでなければ犠牲を少なくすると言う方針で、少女を放置するのは矛盾してしまう。


 ならば俺が取るべき選択肢は、少女を神とする物語だ。


 これは桜庭との決別を意味していた。

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