アイドル神への道
「妹が神候補というのはどういうことだ」
「そのまんまの意味や。神になる候補の一人ってこと。ただ、誤解を恐れずに言わせてもらうなら、候補なんて生まれるはずはなくて、そのまま神になるはずやった」
「意味がわからないな」
そこから樹神さんの解説は始まる。
神というものは万物の概念に対して宿るが、宿るものは神代の時代に尽きており、新しい神は地域信仰などから生まれる弱々しい神だという。ただ、近代になり、初めてできた概念ができた。それがインターネットだという。インターネットが生まれ、概念が定まり、神が生まれる土壌ができるまで百余年。去年に新しい神が生まれるはずだったという。
神というのは三つの出自がある。
概念、それ自体が神になるもの。神代の神などがこれに当たる。
妖怪や精霊など、超常的存在が神に至るもの。
人が神に成るもの。
その三つのうち、今回の事例でいくと精霊か人かどちらかが神になるものだと思われていたと樹神さんは語る。
ただ、二柱の神候補が生まれるというアクシデントが発生した。
これに関しては原因を調査中である。ただ、新しい概念が生まれにくくなり、次の神が最後の神となる可能性が高いため、様々な思惑が交差しているのではないかということだ。
「妹は生き返らないのですか?」
これに対する答えはこうだ。
「肉体の復活という意味では無理やな。けど肉体の再構築という意味では可能」
エネミーの少女。あの子は元々精霊であり、肉体を持たない存在である。神としての力を高めることで受肉という形で俺に接触を果たしたそうだ。つまりは妹も神としての力を高めれば、現実世界に復活することができるのだという。
「どうすれば力を高められるのですか?」
人の感情を得ることが神の力を高めることに繋がるらしい。あの少女は記憶を奪うことで力を高めている。また、有名になったことで畏れという形で力を高めることもできているのだろうとのことだった。
妹を復活させるには感情を手に入れるための手段が必要ということになる。少女のように記憶を奪うのが効率がいいとしても、その手段を妹は選ばないだろう。俺と違って人に優しいから。
ならばどうするか、と頭を悩ませていると北御門が人差しを立てる。
「妹さんならアイドル活動が軌道に乗ればすぐに受肉できますよ!」
畏れすらも力になるのならば、アイドルに対する憧れや感動も力になるというのは理屈が通る。
しかし、なんだろう。
妹を神にするため、アイドル活動を支援しなければならない。
字面に起こすと、平行線を辿るはずの文字たちが正面衝突をしているような気がしてならなかった。