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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
2章 アンチもいれば信者もいる男

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好奇心はメシマズのもと

 折れない心を持った陽キャである北御門とラーメンを食べ、午後の講義も乗り越え、バイトへ向かう前に一度帰宅する。


 自宅では点けっぱなしのディスプレイの中で妹が配信の準備をしていた。難航しているのかサボっているのか、何もない空間で横になり、ぼーっと何かを考えているようだった。俺が「舞香、ただいま」と声をかけると、勢いよく起き上がり「おかえり!」と白い歯を見せた。


「少し話したいことがあるが、今時間いいか?」


 どうせサボっていたから大丈夫だろう、と思いつつも確認を取る。


「しょーがないなー。にーちゃんのために舞花さんの大事な時間を使ってあげましょう」


 恩着せがましい言葉で了承を貰った俺は、着ていた上着をハンガーに掛ける。


「俺の同期が配信者である舞香のことを知ってて、その兄だと理解した上で俺に話しかけてきた。これについてどう思うか意見を聞きたい」


「んーネットストーカー的技術あるならワンチャンにーちゃんのこと突き止められるかも」


 ネットストーカーとはたまに聞くことがある言葉であるが、高度情報化社会に置いてけぼりを喰らっている俺はそれがどのようなものなのか理解が及んでいなかった。


 妹もそれは重々承知ゆえ、俺が尋ねる前に人差し指を立てて「説明しよう!」と得意げな顔をする。


「ネットストーカーとは、インターネット技術が普及した時代に生まれた言葉である。主に特定の相手に対し、粘着行為を繰り返す者を指すものとして使われてきた。また、広義としてSNSなどにアップされた写真から住所や顔などの個人情報を割り出して、現実でも迷惑をかけることを指す場合もある。ちなみに個人情報を割り出すだけならネットスラングで特定班という別の呼び方もあるため注意が必要である」


 一息で説明を終えた妹はふふんと鼻を鳴らす。


「わかったかな?」


 説明された内容を頭の中で噛み砕く。


「つまり、舞香のSNSから俺の個人情報が繋がったってわけだな」


「えー逆ににーちゃんから私に繋がったんじゃないの」


「俺のアカウントはシオミンの情報を集めるぐらいにしか使ってないぞ」


「んじゃ私かー。いうてネットアイドルだからリアルに繋がる情報は出してないんだけどなー」


 昔の投稿を見返す。しかし、それらしき投稿はないため首を捻っていた。


「ないですねー。他にこれかもって情報ないの?」


「そいつから宗教に勧誘されたって話はしただろ。そいつが所属している天樹会の会長から聞いたらしい」


「え、こわ」


 これ以上の進展もなさそうなので話を遮り、お茶を淹れる。普段はあまり淹れない玉露だ。低音のお湯でじっくり淹れた玉露は、茶葉から旨味成分が湯に広がるように溶け、コクのある味わいになる。高温で淹れた場合、渋みと露骨な甘味が混じり合わずに喧嘩する味になる。大昔、妹が玉露を初めて淹れた時に「飲んでみて」と頼まれた時に味わった二度と思い出したくない味だ。


 幼い俺には衝撃的過ぎた事故だったため玉露を飲むたび思い出す。


「あー玉露でしょ、それ。私も久しぶりににーちゃんの玉露飲みたいな」


「無茶言うなよ。その体でどうやって飲むんだ」


「言ってみただけー」


 妹は何をするわけでもなく寝転がり、そのままディスプレイ上を右から左、左から右へとゴロゴロ転がりながら移動する。


「にーちゃんさ、さっきの話って桜庭さんにも相談するの?」


「ああ、そうだな。今日のバイトにもくるらしいからその時にな」


「んじゃ私も連れてってよ。どうせなら関係者集まってた方がいいでしょ。それにアイディアなくて煮詰まってたし」


「別に構わないが、配信はいいのか?」


「他の配信者もプライベートルームからの配信ばかりでみんな似たような企画ばっかでマンネリなんだよね。なんかこうパッとしたのが欲しいわけ。玉露となんのジュースを混ぜたら一番上手いのかとか一瞬考えたけど、電脳だと味とかまだわっかんないしなぁ」


 配信者として正しい姿勢であるが、この姿勢を料理に対しても行い、義理の母から厨房に立つことを禁じられていたのを思い出す。


 妹と義理の母との思い出であるため、もう覚えていないと思うと寂しかった。


「玉露で思い出したけど、そういや私って料理したことなかった気がするなー。身体があったらにーちゃんに美味しいご飯作って家で待っててあげるのになー!」


 この時以上に妹の記憶がない事を呪い、身体がないことに感謝した日はないだろう。

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