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電脳内の痴話喧嘩は見た目の問題が八割

 ソレは俺を見ると一度怪訝な顔を浮かべた後、合点がいったように笑顔を見せて、立ち上がり近づいてくる。トコトコとした小走りで。


 俺の顔を覗き込むように立ち止まる。


「にーちゃん久しぶりー。ま、互いにこっちの顔は見慣れてないけどね」


 ケラケラと喉を締めたように笑う。


 近づき方も、笑い方も妹によく似た仕草だった。


 その完璧な模倣振りに驚き、黙り込んでいると妹のアバターと瓜二つのソレは、首を傾げる。


「その没個性が逆に個性になってるアバターってにーちゃんでしょ? もしかして人違い?」


「……メッセージを見たから来た」


 そう言うとパッと笑顔見せてくる。


「なーんだ! やっぱりにーちゃんじゃん! 愛しの妹に久しぶりに会ったんならもっと嬉しそうにしてよ!」


 頬を膨らませる。まるで自分が妹であることが当然だと言わんばかりの素振りだった。


「妹は死んだ。お前は誰だ」


「舞香ちゃんは舞香ちゃんなのです! じゃ駄目?」


 妹の姿、態度を真似たそれは妹を愚弄にしているとしか考えられなかった。


 沸々と怒りが込み上がり、熱で血流が極限まで高まる。脈が速くなり、身体の制御が理性から感情に奪われる。気が付けば偽物の胸ぐらを掴み、睨みをきかせていた。


 それと同時に、周囲に警告音が響き渡る。電脳ごとに設定されたセンシティブ、バイオレンス行為を検知すると響くものだ。この警告音直後にすぐに行為を止めなければ、セキュリティが飛んでくる。それは人であることもあるし、ボットであることもある。大型電化量販店の電脳ならばおそらく前者だろう。


「放してよー面倒くさいことなるよー」


「お前が誰であるのか言うのが先だ」


「んー舞香ちゃんは舞香ちゃんであることが自明であるから、それを証明しろと言われると困ってしまいますなぁー」


 胸倉を掴まれたまま腕を組む。


「正直なところ、私にも何が何だかでどうしたものやら。てか無事ではないと思ってたけど、私死んだの?」


 白々しい。


「半年前に死んだ。火葬も済んでる。だからお前が妹なんて有り得ない」


「うわーマジか。どうしよ」


 頭を抱えて悩み始める偽物。


 それと同時にセキュリティが飛んでくる。警備員の見た目をしたそれらは、俺一人が怒りを発していて、それを受けているはずの女性がまったく恐れていない状況に首を捻りながらも職務をこなそうと「何があったかわからないがその手を放しなさい。女性には優しくだよ」と諭してきた。


 偽物は「痴話喧嘩なのでお気になさらず!」とこれまた癪に障る発言をかます。


 セキュリティもご丁寧に「いやいや、そういうわけですかで済まないからね」と返す。


 この流れに今まで黙って聞いていた桜庭が、いやプロゲーマーサクラバが介入する。


「本当に痴話喧嘩なんですよ。もちろんこの続きは別の電脳でしますので、ここは見逃していただけないでしょうか」


 セキュリティもプロゲーマーの顔を知っていたのか「サクラバさんが仰るならば仕方ないですねぇ」とデレデレした様子で話がまとまった。


 桜庭は俺の手を放させると、俺と偽物にプライベートスペースのアドレスとゲスト権限を送ってきた。


「続きはここで話すぞ。気になることもあるしな」

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