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正義という大義名分ほど厄介なものはない

 えげつない物量の課題を打ち倒し、疲れ切った身体を休めるべく横になる。けれど酷使した頭は、工藤さんの自宅から車で帰宅した時のように冴えてしまっていた。まるで「もっと仕事をくれ!」とギラギラと脳内麻薬でキマっているようだった。


 このまま眠れずとも目を瞑っていれば身体は休まろう。だがしかし、なんだか勿体ない気もするのもたしかだ。


 少しばかり起きていれば、脳内麻薬が切れた頃に眠気が来るだろう。


 そう思って起き上がり、パソコンの電源を点ける。


 通知などはなく、ネットを覗いてみても気になる情報はない。妹も今は配信中らしい。桜庭の教えを守って、プライベートルームからゲーム実況をしていた。ちなみにこのプライベートルームは俺が金を出して新しく借りたものだ。配信で得た金で返すからと言われ、仕方なくなけなしの金を出した。


 これでは時間を潰そうにも潰せない。


 ではどうするかと悩んだところで、久しぶりに電脳世界をぶらつくことにしようと決めた。


 量産型アバター狩りなんてものもあるらしいが、商業施設系の戦闘行為が禁じられている電脳ならば大丈夫だろう。


 そう思って大型ショッピングモールの電脳に降り立った訳だが、嫌に視線を集めていた。


 理由も明白。


 普段ならばどの時間帯でもそれなりにいたはずの量産型アバターが、俺以外にいない。量産型アバター狩りは俺の予想よりも深刻な状況らしい。まるで2000年代前半にあったという伝染病が流行った時、ノーマスクで歩いたような視線の集め方だ。マスク警察という正義の味方も現れて、過剰な暴力に頼った正義の行使で問題になったと当時を伝え聞いたお爺ちゃん先生はそう教えてくれた。どこまで本当なのかは怪しいところがある。


 時代は変わっても人間はそう変わらないらしく、ベンチに座って休んでいた俺を囲むように柄の悪そうなアバターが集まっていた。


 何をされたかというと罵詈雑言や恫喝を浴びせられたのだが、彼らにできるのはそこまでだった。暴力に訴えられないそれらは効果半減といったところだった。臆病者にはそれでも効くのだろうが、生憎この手のことには耐性があった。


「ここを去れとおっしゃいますがこの状況で去ることになるのはあなた方の方では?」


 周囲には単なる客がいて、それらが警備員を呼んだらしく「またか」とほとほと疲れ切った顔が連れてこられていた。


 ここからどうなるのやらと暇つぶしになりそうだとワクワクした。


 だが、それは事態は予想外の方向に動き出す。


 突如、警報がショッピングモールに鳴り渡る。


 何事だと皆が同様する中、少し上擦ったアナウンスがそれを伝えた。


「正体不明の敵性存在が本電脳に出現しました。皆様、焦らずログアウト可能ならすぐにログアウトを。できないようなら避難をお願いします」


 囲んでいた輩は先程までの威勢はどこへやら「ログアウトできねぇ!」と喚いている。


「てめぇがどうにかしろよ!」


 さっきまで脅していた相手にそう命令するのはどうかと思う。


「プライドとかないの?」


 なので煽った。


 しかし、喧嘩にはならなかった。


 なる余裕もなかったといえる。


 俺の後方を見て、固まる輩たち。後ろに目を遣るとエネミーがいた。俺が与えた傷は全て癒えていた。


 それは一足でこちらに向かってくる。


 その場にいたものは皆逃げた。


 その多くが逃げ切れず、その鉤爪の犠牲となり果てる。


 俺はそれを見届けることになった。


 エネミーは俺を殺さなかった。


 遠くから俺を一瞥し、新たな獲物を捜しに消えた。


 殺さなかった真意は図れなかった。だが何か意味があったことのように思えた。


 この夜、俺は生き残りとして事情聴取される羽目になる。眠気がきても寝させてはくれなかった。

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