信用しないという信用の仕方
日が暮れる中、帰り道を走る車内は静かだった。
スレンダーな体型もしくはもやし野郎と呼ばれる俺は、デブもしくは大根系男子と呼ばれる対極に位置する者と同様に体力がなかった。ようするに慣れない長距離移動と初対面の人との会話に疲れ切って、俺は眠る、と宣言して目を瞑っていた。
かといって頭は覚醒し、なかなか眠りにつけやしない。ただ腕を組んで、目を瞑っているだけの置物だ。しかもこの置物、周囲に静かにしろという圧を出すのだからタチが悪い。それを自覚しつつも辞める気はないのから殊更タチが悪い。
車が減速し、体が前に持っていかれる感じを覚える。
信号だろう。
近くは交通量の多い道らしく、車が行き交う音、クラクションを鳴らす音、それに応戦してクラクションを鳴らす音が聞こえてくる。非常にやかましい。
「うわー、今の車カーチェイス始めたよ。アイツらヤバ」
妹の声がした。妹は帰宅する際、自分も外の景色見たいと駄々をこねた。その結果、携帯と車載カメラを繋いで外の景色を見れるようにした。わざわざ帰るタイミングで駄々をこねて、工藤さんの家にあったケーブルをいただいてきたのだ。妹は一度マナー講師にしばかれてほしい。そういうコラボをやらせたい。
青になったらしく車を再び動きだす。
「ここら辺、警察が張ってるのは地元民じゃ常識だから普通お行儀よく運転するもんだ。それしないってことはアイツら外から来た奴らだな」
「へーそうなんだ。ま、事故る前に捕まるならいっか」
会話が終わり、ようやくまた静かになったと思いきや桜庭が「聞きたかったことがあんだけど」と会話を続けようとする。
「ん、なに? 彼氏ならいないよ」
言ってすぐ「レイちゃんいるし、興味ないかー」とおどける。
「あー、聞いてたか。黙ってて欲しかったんだけどな」
「言わなくても察したけどね」
「ま、バレたならバレたで構わないと思ってたし。そんなことより聞きたかったことなんだけどな」
桜庭は一呼吸置く。
「最近、変なファンはいなかったか?」
「変? 例えば?」
「身の上を聞き出そうとか、そういう輩」
「んーアバターで活動してるし、ファンのみんなは大なり小なりそういうの気にしてるもんだしなー。そういうの変って言っちゃうとまともな人なんていなくなっちゃうなぁ」
「あーたしかにそうだな」
「てか何が言いたいわけ?」
「エネミーがオカルトって話あっただろ。あれはマジっぽい」
「まー私がこんなことになってるわけだし、今更じゃない?」
「それを国が何か知っていたらどうする?」
「そりゃ話は違ってきますなぁー」
「オレも詳しく知ってるわけじゃない。会見後、国から調査員が来て、オレに小一時間聞き取りして行ったんだ。その時、妙なことも訊かれた。あれは探りを入れてきた……いや、変なことを言ってこっちの反応を見てきたに近いな。エネミーがどういう存在だと思いますか、どうして記憶を失うと思いますか、死んだはずの人間が生きていたら貴方はどう思いますか、とかな」
「うわ、きな臭いじゃん」
「だから身の回りには気をつけてくれ。信頼する相手は総司とオレだけにしてほしい」
「そうだね、そうする。……てかにーちゃん起きてた時に話した方がよくなかった?」
「コイツ、推しに関わる提案されたら、簡単に人のこと売るだろ」
「それなー」
失礼な!
そうは思いつつも強く否定はできなかった。
だから、寝たふりをし続けた。
もう寝れそうになかった。