黎明
期待せず期待されない関係、一方的に庇護もしくは応援する関係、攻撃を受けては反撃する関係、利と理の交渉による停戦協定を結んだ関係、互いに邪魔にならないように距離を置く関係。それが俺の人間関係の全てであった。
そんな取るに足らない人間の人生に対し、謝罪し、あまつさえ嫌われたくないと吐露する。
それは俺がこの世にいていいんだと。
居場所があるんだと。
そう思えた。
空が白む。
夜のとばりが畳まれ始める。
群青と柑子色に二つに空が分かれた。
それは俺の心に陽が差したことを言葉以上の雄大さをもって知らせるものであった。
つまるところ俺の意思表示である
俺とアンジェラはその空に、どちらからともなく笑った。
「恥ずかしいな。隠し事できないじゃねえか」
アンジェラは人差し指で瞼をなぞるように拭く。
「なんのことかしら。口で言ってくれなきゃわからないわ」
「意地悪しないでくれ。結構恥ずかしいんだぞ」
「レディはちゃんと口で言ってくれる人が好きなの」
恥ずかしくて空を真っ直ぐ見つめる。
たぶん耳はあの柑子色に負けず劣らず赤みを帯びているだろう。
「嫌うわけがない。俺のことを俺以上に想っている人を嫌うわけがない」
「……ありがと。でもそこは嘘でも愛してるって言って欲しかったわ」
「嘘をつけないのはわかってるだろ」
「ええ、わかってる。貴方の嫌いじゃないが愛してると同じぐらい情熱的なのもわかってるわ」
「これ以上虐めないでくれ。顔から火が出そうだ」
「そうね。でも一つだけいいかしら?」
頬にアンジェラの唇が触れる。
「いつの日か貴方から唇を奪ってくれることを期待してるわ」
アンジェラは立ち上がり、腕を絡ませ俺を立ち上がらせる。
「それじゃ帰りましょ。みんな貴方の帰りを待っているわ」
手を繋ぎ、歩き出す。
地平線の彼方にある太陽を目指して。
横並びで進む。
気持ちのいい風を浴びながら、繋いだ手の暖かさを感じながら、大地を踏みしめて進んでいく。
「あと少しよ」
アンジェラがそう言った。
「ただ、可愛い門番がいるみたい」
そう続けた。
俺らが進む先に小さな体躯を精一杯に広げて立ち塞がる子供の姿があった。それは黒い影が子供を模したものであった。陽を受け、小さく、けれど濃い影。幼い日の俺を形どっているようであった。
「理不尽が待ってるだけの世界にどうして帰ろうとするの?」
正しさを求めていた頃の俺であった。




