瞼の幼女
瞼を開くと覗き込むように見下ろす少女の姿があった。美しい金の御髪に可愛くも美しくもある猫のような顔立ち。ただ見覚えのある姿より幾分成長しているように見えた。以前が小学校低学年ならば高学年。中学生と自称しても背が小さいからだと納得できそうな落ち着いた雰囲気。
「大きくなったな」
アンジェラの小さな嘆息。
「そこは綺麗になったな、じゃないかしら。それじゃ久しぶりに会う親戚の叔父さん叔母さんみたいよ」
「精霊でもそういうの分かるんだな」
「概念だけならね」
アンジェラは身体を起こした俺の横に腰掛け、おもむろに頭を俺の肩に預けた。そこから感じる重さは跨がられた時よりも重く感じられた。
「どうして成長したんだ?」
「美容に良いもの食べたつもりが滋養に良かった方に影響したみたい」
村雨のことだろう。
「よくあんのゲテモノ食えたな」
脇腹を抓られる。
「レディに対して慎みを持った方がいいわよ」
「レディと呼ぶにはまだまだ背丈は足りないな」
「そういうとこよ」
再度溜め息を吐くアンジェラ。
そんな彼女に俺は言った。
「すまなかった」
アンジェラは目を細め、下から覗き込む。口元は緩んでいた。
「何に対しての謝罪かしら?」
「アンジェラを神にできなかったこと。あのとき俺を庇うような真似させたこと。俺の責任だ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「あら、素敵な申し出ね。貴方の魂を食べればあたしに身体の主導権が渡るかしら?」
アンジェラは立ち上がる。
おもむろに後ろに回る。
その姿を目は追い掛けなかった。何をされてもいいという覚悟の上だった。
「えい」
なんとも可愛らしい掛け声とともに背後から抱き着かれた。後頭部には無かったはずの膨らみが当たっていた。
「ふふ、食べられると思った? バカね。そんなことするぐらいなら庇わないわよ。あ、違う意味なら食べちゃいたいけど」
これみよがしに頭に乳を押し付けてくる。
「レディよ。レディ。ほら、黙ってないで認めない」
「性格変わったか?」
「久しぶりに会えたからつい、嬉しくて、ね」
少しばかり落ち着きを取り戻した口調になるも頭を離してはくれない。
「神になれなかったことに後悔はないわ。自ら権利を手放して一緒にいることを望んだのだもの。だから謝らないで」
「それは俺を守った結果だ。守るような事態にならなければ神になれたかもしれないだろう……っ」
俺は震えていた。感情がぐちゃぐちゃに攪拌されていた。悔しさ。情けなさ。申し訳無さ。それらが一緒くたに混ぜられ反応し、感情の抑えが効かなくなった。涙が止まらない。こんな俺を信じてくれたアンジェラの期待を裏切った俺が許せなかった。
より身体を密着させるように抱き寄せられる。
俺の耳元からアンジェラの声がする。
「違うわ。それは違うの。あたしは折を見て貴方の妹に権利を譲渡するつもりだったから」
それはひどく申し訳なさそうな声色をしていた。




