影の四肢
迸る炎。
猛る閃光。
男の意地による鍔迫り合い。
唸りを上げる高周波ブレードはシステム上有り得ない焔を纏う。影が村雨を取り込んだことにより村雨が持つ権能を俺が振るうことができるようになった。確実に人から離れつつあることの証左。
対するケイオスは剣の軌跡に冷たい光が煌めいた。
それは高周波ブレードと接触すると爆発の如き閃光が起きた。
互いに一歩も譲らない魂のぶつかり合い。
炎と閃光、互いの刃越しに視線が交差する。
「これで本気か?」
問い掛ける。
「……これだから鬼は困る」
閃光が爆ぜた。
その一瞬でケイオスは後ろに跳んだ。距離を取った奴は空いている方の手のひらをこちらに向ける。それは瞬く間に異形へと姿を変える。以前披露した筋線維が剥き出しの蛇。だが今回、神に近づいたことにより、神々しいものに姿を変えていた。腕は八又に別れ、それぞれ白銀の鎧を纏う蛇の姿に。それはまるで八岐大蛇を模したようであった。
それぞれが意志を持った獣の如く襲い来る。
サブマシンガンを片手で構え、照準を大体の目測で合わせる。
猛る魂を弾に込める。
撃ち出した無数のそれらは蛇の鎧を、皮膚を削り、焼いていく。
耐え抜き、間近まで接近した蛇は一飲みできるほどの巨大な顎で飛びかかる。
飛び退き、寸でのところで避ける。
その先で肉薄する胴に刃を突き刺す。
迫る勢いのまま進んでいた蛇の胴を切断する。
その痛みからかケイオスは絶叫。けれどこちらを睨んだまま残り七頭の蛇をこちらに差し向ける。
視界に幻の影が揺らめいた。
力に呼応するように色濃く。
殺すでつもりで来い。
そう言ったはずだ。
心から溢れ出る感覚。傷口から温度を残したままの血がとめどなく流れ出る感覚。
影が足元から同心円状に広がっていく。
それは闇となり底のない沼地のようであった。
その中心にいる俺はその上に立っていた。
高周波ブレードから漏れ出るものは焔から闇の鱗粉に。
銃弾は皮膚を溶かすナニカに代わる。
それを操る四肢は余さず闇に覆われる。
禍々しさを身に宿し、告げる。
「ライブの時に魔王になるってほざいたよな? ――生き恥晒す覚悟しねえ癖にほざいてんじゃねえぞ!」
ケイオスが俺を睨む。
「何も知らない癖に! 何も知らない癖に! 何も知らない癖に!」
沼地から這い出た腕が残り七つの蛇と応戦する。
蛇の頭を落としていき、沼地に吸収されていく。
その中でもがれた俺自身の腕、引きちぎられた俺の足も沼地に堕ちていく。
その度に闇が身体を補っていく。
七ツ蛇全ての頭を落とした時に残ったのは頭だけであった。




