魔性の声
妹たちは呼び掛けていた。
世界に向けて。
「ジャックした回線を必至に取り戻して呼びかけてる。美しい兄妹愛だな」
妹たちは自分を犠牲にしてでもこれ以上の犠牲を出さないために戦いに臨んだ俺をどうして応援しないのだと叫んでいた。
「才能あって行動力のあるバカは如何ともし難い。こっちが入念に準備したものを一手で覆そうとするからね」
妹の言葉は魔性のそれであった。
「その一手へのヒントを与える奴もいて困る」
「わざとらしく外と連絡取れるようにしといてよく言う」
世界が魔性に浸っていく。少しずつ嵩を増して沈んでいく。
「レクイエムだったか? そんな洒落た呼び方すんなよ。葬式で流す曲は妹たちのデビューソングにしとけ。ああ、もちろんお前が死んだ時のな」
高周波ブレードを持つ手とは逆にサブマシンガンを構える。
「ああ、それでこそアンジェラが見初めた相手だ」
ケイオスが白銀の直剣を構える。
魔性が世界に行き届く前に決着を。
それが俺とケイオスの間で成った暗黙の了解。
これは命を掛けた戦いであるとともに意地を張った男の在り方を受け止める戦いでもある。
今のケイオスはどこか過去の俺と重なって見えた。世界に抗うのに疲れ、人生を投げ出そうとしたあの頃の煤けた俺に。奴が今何を思って戦いに臨んでいるのかなんて分かりはしない。最期に一花咲かそうとこの場を選んだのならば受け止める他ない。
等身大の女神様に救われた俺が今度は誰かを救う。
そんな道徳の授業でありそうな話。
それを殺し合いで表現する。
暴れることでしか発散できないナニカを受け止める。
世界を巻き込んだ決闘でそれをやる。
とんでもなく傍迷惑なことだろう。
だからこそだ。
間違った世界に生まれ落ちた俺たちが、世界を巻き込んだ間違いを犯す。
これ以上ない意趣返しだ。
これは俺にしかできない。
俺以外にできたとしてもこの役目を譲るものか。
「俺が死んだらこんな世界は好きにしろよ!」
叫んだ。
世界中から絶叫が届く。
ケイオスは少し面食らったのか一拍置いてから笑い声が返ってきた。
「……ああ! 滅ぼしてやるよ!」
そして俺らは駆けた。
互いの距離が近くなる。
一振りが触れ合った。




