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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
10章 巻き込まれた兄の話

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ヒーローはいない

 飛空艇から飛び立った。


 眼下にはあの春先のマップと同じ地形をした島があった。山もあれば荒野もあり、住宅地もあれば高層タワーひしめくオフィス街もあった。何度かのアップデートで今は楽しめない地形である。


 本来ならばここで何処を着地スポットにするか定め、参加者は散り散りに分かれ、降りた先で物資の争奪戦を始める。だが今回の参加者は俺とケイオスの二人。ケイオスに物資は必要ない。そのため条件をイーブンにするべくケイオスは必要な物資を最初から所持している状態にした。以前参加し、桜庭に裏切られた討伐作戦と同じである。


 ゆえに急ぎ物資をかき集める初動は不要である。


 のんびりと景色を楽しみながら降下し、降りた先は荒野。周囲には廃ビルがいくつか並んでいる。そこは春先にアンジェラを打ち倒した場所であった。


 そこにケイオスは佇んでいた。


 白磁の身体に白銀の剣を携えていた。


 俺の降下に合わせ、ケイオスはやおら立ち上がる。


 降り立ってすぐに切り合うような野暮はしないらしい。


「よく逃げ出さなかったね」


 奴はそう声を掛けてきた。


「逃げ出せない環境に軟禁しといてよく言う」


「誰にも見つからない場所に避難させたと言って欲しいな」


 この戦いはケイオスによって全世界同時中継されている。この会話も聞こえているはずだ。俺の死を劇的に伝えたいからか、奴の口から伝えたいことでもあるのか、あるいは両方か。決闘前の遣り取りを世界中に見守らせていた。


「凄いよね。世界中の殆どが君の死で僕の気が収まることを期待してる。その恐れが僕への信仰として力になっている」


 ケイオスの背後の宙空に数多のウィンドウが表示される。そこには世界各地で思い思いに祈る様が映し出されていた。


「妹とこの一連の事件で知り合った人ぐらいしか君の無事を祈ってる奴はいない。親ですら心配していない」


 この期に及んで煽り合いとは流石電脳世界の神様になろうという奴だ。古き悪き文化によく染まっている。……もしかすると心を折る気だったのかもしれないな、と桜庭とのやり取りに毒され過ぎたとも反省した。


 それはそれとして煽られたのならば煽り返すのが礼儀だ。


「世界を危機に陥れておいてやることが口喧嘩か。ビビってるんじゃねえのか」


「おいおい、これから思う存分に殺し合うんだ。精々互いに殺意を高め合おうという心遣いが分からない君じゃないだろうに」


「ふん。盛り上げたいのならそういうことは黙っとけ」


「希代の悪役は言うことが違うね」


「その世界中から死ぬことを求められてる悪役が全ての元凶を打ち倒したら痛快だと思わないか?」


「伝説になるだろうね。もっとも僕のことを倒せるとは思わないけど」


「生意気言うなよクソガキ」


 高周波ブレードを取り出し、一振り。


 その刃の軌道に火花が舞う。


「レクイエムをすぐに流せる準備だけしておこうか」


 特大のウィンドウに妹たちヒマワリが映し出された。

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