星は自らは光れない
試合開始まではあと少しの猶予がある。
連絡を取ろうと思えば取れる。だがしかし、やはりともいうべきか、億劫であった。送られていたメッセージの量がえげつない。その圧に引いてしまっていた。見ていなかったことにしようかと、そっと閉じしようとしたところ着信が入る。
妹からだ。
逡巡し、無視しようとしたが中々諦めてくれない。
一分ほどで根負けし、着信に応じた。
その直後、こちらの言葉を待たずに無事かどうか、今どこにいるのか、帰ってこれないのか、てかなんでログインしてるのか、などとウィンドウに唾を飛ばしそうな勢いで質問が飛んできた。
「落ち着け」
質問に割り込んだら「これが落ち着いていられますかって! 音信不通だったにーちゃんとようやく連絡取れたんだよ! てか本当に何があったっての!?」とこれまた質問の山ではじき返されてしまった。
どうにか妹をなだめ、俺はこの二日間あったことを説明する
妹は上手く飲み込めないのか似合わない難しい顔を浮かべていた。
「なんであのクソガキがにーちゃん助けてんの?」
「さあな。何はともあれ正々堂々と戦うつもりはあるみたいだな」
「戦うつもりなの?」
「戦わないわけにはいかないだろ」
「そりゃそうだけどさ」
「何か思うとこでもあるのか?」
妹は口を紡ぐ。
「黙ってちゃわからないぞ」
俯く妹は小さく「なんで」と漏らす。
「なんで戦えるの。誰もにーちゃんが勝つことを、生き残ることを期待してないじゃん。こんなのおかしいって。なんでみんなのために戦うのに、誰も見方してくんないの。馬鹿真面目に戦う必要ないって。……滅んじゃえばいいだよ、こんな世界」
声が震えていた。
怒りが漏れていた。
「アイドルだろ。そんなこと言うなって」
なだめようとした。
だがそんな態度が気に食わなかったらしく舌打ちをされる。
「おかしいよ! 私のにーちゃんはそんな物分かりいい人じゃないでしょうが! 自分を馬鹿にする奴等は誰彼構わず中指立てて喧嘩吹っ掛ける奴だったでしょうが!」
こいつは兄のことをなんだと思っているのだろう。
そんな奴が齢二十を過ぎたら単なる危険人物でしかない。
俺は……まあ、そういう時期も多感な時期もあっただけだ。
「またあの大会の時みたいに世界中に喧嘩売ってよ!」
若気の至りじゃすまない時期に喧嘩を売っていたのを忘れていた。
「あの時は皆してヤンチャできたモラトリアム期間だっただけだ。もう俺は子供じゃいられない立場になったんだ」
「大人になったら理不尽を受け入れるなんておかしい! 大人なら理不尽と戦ってよ!」
親鳥に餌を求める小鳥のようなさえずりのようだった。
多くの人がそのさえずりに応じたいと思う心のいいところをくすぐる真っ直ぐな声。
「それは俺の役目じゃない」
俺は続ける。
「それは一人前のアイドルになった舞香の役目だ。ファンに輝かせてもらうのがアイドルなら、その輝きをもって皆が目指すべき道標になる。俺は舞香ならそんなスターになれると確信してる」
妹は小さく小さく「そんな言い方ズルじゃん……」と仄かに頬を赤くしていた。
「俺の役目は覚悟決めた奴を受け止めることだ」




