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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
10章 巻き込まれた兄の話

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近親憎悪

 こうして話は決戦当日へと進む。


 世界が待ち望んで止まない俺が殺される日となったのだ。


 影がそこら中で蠢く幻影となって視界を埋め尽くす中、優雅な朝食を取り、戦いに向けて身支度をする。ケイオスはここ二日間、洋館に帰ってきていない。ここを拠点にしていないだけかもしれないが、もしかしたら奴も殺意が薄れるから顔を合わせる機会を減らしたいのかもしれないなんて思ったりもした。


 その反面、桜庭とは直前まで話をした。たわいもない話も下世話な話も真面目な話もした。その中で「ああ、こいつまた良からぬことを考えてるな」と察したが、俺でも察することができたということは別にバレてもいいということだろう。以前裏切られた時なんて裏切る素振り一つ見せなかったのだからそういうことなのだろう。


 時間になる。


 桜庭から案内された部屋には椅子と一体型となったヘッドマウントディスプレイがあった。応答速度などが段違いだと言われているがその強気な価格設定から一部のストリーマーがネタで導入するか公式大会でしか使われているのを見たことのない装置であった。


 随分と羽振りが良い。言い訳ができない状態で俺を負かしたい意志がそこに感じられた。


 その愚直で不器用な意志の強さは、どこかアンジェラと似ているような気がした。


 アンジェラは最初に戦った大会の時もこちらが対抗できない力を封じ、ゲーム内だけの力で対抗できる程度に格を落として戦った。そこにあるのは信念。真っ当な手段で神になるという意志。


 ケイオスにも通ずるものを感じた。


 アンジェラの清廉潔白なものとは方向性は大きく異なるが、強い信念。


 それがなんなのか推察できるほどの俺らは理解し合っていないため、知ったこっちゃないに落ち着くしかない。だが正々堂々戦うことに関しては嘘偽りはないのだろう。


 桜庭は部屋から出ていき、外から鍵を閉める。これで桜庭がケイオスから与えられた役割は全て果たしたことになるそうだ。結局、桜庭が何故ケイオスについたのか訊くことはなかった。どうせ工藤さんの記憶を取り返すためだとかそういうところだろう。


 それにこの二日で嫌がらせをする素振りすら見せなかった。煽り合いや悪戯は山ほどされたが挨拶みたいなものだからノーカン。この戦いで俺が勝っても負けてもそれが叶うならば、あえて敵対する意味もないのだろう。では何をやらかすつもりなのか。きっと馬鹿をやるつもりだろう。


 身内以外失うものがない国民的テロリスト扱いされた同士だからわかる。


 きっとコイツは最後に自分が楽しむことに全力を注ぐだろうという確信がある。


 まったくクソ野郎にも程がある。


 椅子に腰かける。メッシュ素材にヘッドレスト、ランバーサポート完備。何時間でも座っていられそうな座り心地。ヘッドマウントディスプレイを降ろし、視界を塞ぐ。


 メーカーのロゴ表示ののち、意識が解けていく。


 現実から仮想の世界へと意識が流れていく。


 重力から解き放たれたような浮遊感。


 意識を包み込むように身体が構築されていく。


 つま先から胴体、肩から腕、最後に顔。


 現実から仮想へ生まれ変わる。


 銀髪、赤眼を携えた悪人面へと。


 妹お手製のアバター。


 俺が俺であると示すための姿。


 その姿で出撃準備室に降り立った。

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