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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
10章 巻き込まれた兄の話

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知育玩具ではないタイプ

 カレーは旨かった。値段を聞けば一つの千円を超えるという。それゃこれだけブルジョアジーな生活を送っていたならば満喫できようというものだ。


「なにか見るか?」


 そう言って桜庭は壁に掛けられたディスプレイをリモコンを使って点ける。映画やアニメの一覧が表示される。どこかのサブスクリプションサービスのようだった。シオミンのライブ代を捻出するため貧乏学生に陥っていた俺には手の届かないサービスであり、見たかった映画もいくつかあった。


 何にするか迷っていたら突如画面が切り替わる。


 小憎たらしい子供がこれまた小憎たらしい笑みを携えて映っていた。


「世界中の皆さん、こんにちは。前は……そう、決戦の日取りを伝えた時だったね。みんな恐らくこう思ってるんじゃないかな。どうしてまたジャックしたんだろうってね」


 俺は突如夢から覚めた気分だった。カーアクションが凄いと評判の映画に決めてワクワクしていたのだから。


「もしかしたらお楽しみの邪魔をしてしまった方もいるかもね」


 コイツ、こっちのことを見越しているんじゃなかろうか。


「僕としても本意じゃないから許してほしい。大事なお知らせであり、残念なお知らせをしなければならないから。人によってはありがたい報告かもね」


 えらく勿体ぶる。


 桜庭は「これ見ろよ」とタブレットの画面でネットの反応を見せてくる。皆、思い思いの戸惑いの言葉を述べていた。


「これがどうした?」


「まあ、見とけよ」


 ケイオスは言った。


 三刀総司が何者かに誘拐される計画があったと。誘拐されたとも言った。その計画を立てていた国と組織の名を挙げていった。そして、その証拠も公開した。以前、世界各国の機密文書を公開した過去を持つケイオスがやったとなればその信用度は段違いだ。ネットは荒れた。名を挙げたものの中に自衛隊も含まれていたからだ。また、俺が誘拐されたことで決戦が起きなくなり、ケイオスの怒りを買うのではないかとの懸念も多かった。


 ケイオスは続けて自らの手でそれを救い出したと言った。


 これには賞賛の声が起きた。


 世界を滅ぼすと言っている奴が賞賛されるのはおかしいだろう。チンピラがちょっといいことをしたら褒められるアレよりも酷い。


「もっとも日本国家は今頃放置された諸外国のパワードスーツ見て、見当違いな遣り取りをしている頃だろうね」


 ケタケタと腹を抱えた。


 それもすぐに飽きたのか取り繕った顔に戻る。


「三刀総司の身柄は僕が預かる。彼のアンチには悪いけど彼を人間の玩具にはさせない。彼は神々の玩具だ。玩具を奪おうとする奴には容赦はしない。よく覚えておくように」


 こうしてケイオスのメディアジャックは終わった。


 ネットの反応はケイオスに好意的であった。というよりはこの期に及んで政争に明け暮れる人間社会に呆れていたようであった。ケイオスに記憶を奪われた被害者とその身内だけが奴の言葉を信じてはいけないと声をあげていた。


「俺は神々の玩具らしいな」


「一般学生が神々の諍いに巻き込まれて、ここまで引っ張って連れて来られたんだ。きっと落としても叩いても壊れない丈夫な玩具なんだろうな」


 幼児用玩具であっても間違いなく知育玩具な側面はないタイプの玩具なのだろう。


「ところで俺は人でなくなるらしいがそこについてはどう思う」


「もとより人でなしだろ。もしバケモンになったら殺してやるから安心しろ」


「その時はお前も道連れにしてやるよ」


「野郎と心中する趣味なんてねえよ」


 初めて会った時と同じ剣吞な空気が流れていた。

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