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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
10章 巻き込まれた兄の話

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202/222

 ヘリが着陸したのはこれまた辺鄙な場所であった。やはりヘリポートには根性逞しき雑草が幅を利かせ、周りには鬱蒼とした木々が溢れる陰気な森の中であった。樹海というのはおそらくこういうものを指すのだろうと一人納得していた。


 そこからまた少し歩いた先、古い洋館が見えてきた。建築されてから長い年月が経っているのか外観は傷んでいる印象を受ける。だが窓が割れたりしている訳ではなく、住もうと思えば住めそうであった。


 パワードスーツは鍵の掛かっていない玄関扉を開ける。


 出迎えたのは生身のケイオスであった。


「見た目はボロっちいけど内装はリフォーム済みだよ。快速なネット環境もある。あんな安アパートなんかより住心地はいいはずさ」


 ケイオスが我が居城を馬鹿にするのも当然なぐらいには内装には力を入れていた。さすがに数時間前までいた旅館には敵わないが、居心地だけなら充分に良さそうであった。窓ガラスが割られた我が居城とは比べるまでもない。


「決戦当日までここで時間を潰せばいいのか?」


 洋館の中へ踏み入ると、暖気が体を包み込んだ。冬の山道を歩き冷えた身体は寒暖差で蒸し風呂のように熱く感じられた。


「そうだね。好きに過ごしなよ。ああ、ネット使って外に連絡とかはできないからね」


「元より電脳関係なんて人並み程度にしか詳しくないから安心しろ。まだこの山の中から人里探す方が可能性あるだろうな」


 するとケイオスは「止めた方がいい」と言った。


「人里探されると不都合か?」


 腰に手を当て呆れた声で言う。


「熊が出る」


 そういえば冬の山道だというのに雪がなかった。暖冬では冬眠しない熊が出ると聞いたこともある。


「お前より熊の方が怖いから屋敷の中に引きこもってるわ」


 それからケイオスは大広間に俺を案内する。温かみのある木目調の壁、向かい合わせの一組のソファ、その天井には常夜灯のシャンデリアが存在感を放っていた。


「お前の趣味か?」


「ありものを使ってるだけだよ」


 アンティークと呼べそうな家具も誂えており、売れば一財産になりそうであった。


「家の中は好きに使っていい。僕が望むのは最後の戦いだけだ」


 そう言ったケイオスは落ち着き払っていた。


「どういう心境の変化だ? ブルースフィアで戦った時やアンジェラを殺した時、里に入り込んだ時とも比べ物にならないくらいに落ち着いてるな」


「この期に及んで焦る必要もないからね。お前がどこかの国に拉致でもされない限りな」


「相当焦ったみたいだな」


「敵に助けられたことに敗北感ぐらい抱いたらどうだい」


「次がある敗北なら次勝てばいいだろう」


 小憎たらしい奴は見た目相応な戸惑いを顔に出すも、すぐにそれを仕舞った。


「やっぱりお前もアンジェラも嫌いだ」


 俺に指を差し向け、睨む。


「完璧に勝つ。それで全て終わりだ」


 言うだけ言ってケイオスは虚空に消えていった。


 やはり何か変わった。神に近づいたことによる心境の変化だろうか。いや、そんなすまし顔で語れるような何かじゃない。もっと重く、悲痛ゆえの諦観。まるで死を望んでいた頃の俺みたいに見えた。


 証拠も何もない。


 ただ見て思っただけのこと。


 だが確信に近いものを抱いていた。


 一人になり、手持ち無沙汰になった俺は近くの窓に手を掛ける。鍵は掛かっていなかった。逃げようと思えば森の中に逃げ込める。


「総司、熊は本当に出るからそれは推奨できねえな」


 よく聞いた声が俺の名を呼んだ。


 ひどく久しぶりだったのに、それが誰のものかスッと理解できた。


「お前こんな場所にいたのかよ」


 声の持ち主に目を遣る。


 桜庭が変わらぬ姿で立っていた。

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