頭のおかしい国
気絶した後の話をしよう。
襲撃から数日して目が覚めた俺に北御門は心痛な面持ちで語った。何故北御門かというと大人達は皆慌ただしく走り回っており、まともに顔を出してくれていたのが北御門しかいなかったからだ。
まずはケイオスの話にしよう。
虚空から消えたアイツは事前に予想していた通り、現実世界の会場に現れた。待ち構えていた退魔師によって総攻撃を受けることになる。だが無駄に終わった。それらの攻撃は、電脳世界と同じく奴の身体をすり抜けた。その逆もまたしかり。倒せず、倒されず、かといって拘束すらできない。
ケイオスは退魔師達と一通り戯れ、再び虚空に消えた。
作戦失敗。
だが犠牲者も無し。
最悪を免れた。
当初、政府も退魔師もそう結論付けた。
大っぴらに神様だなんだとケイオスと妹が言ってしまったため箝口令は免れないだろうが、誰かが死んで対応に追われるよりは楽な仕事だったと胸を撫で下ろしていた。
それで済まなかった。
済ませる気がなかった。
北御門は言った。
ケイオスは世界の退路を断つつもりだったのだ、と。
奴がしたこと。それは全世界のメディアを丸一日ジャックだ。
そこで奴は繰り返し語った。
神の実在について。
これまでに起こった一連の事件は神を決めるための争いだということ。
神の力が二つに分けられ、その保持者が自身と妹の二人だということ。
先ほどの襲撃で二つの力が神として覚醒したこと。ご丁寧にその映像も流して説明していた。
半年後に互いに力に慣れた頃、最後の戦いを挑むということ。
これらを繰り返し語った。途中からは録画映像を繰り返していただけだが、これによって全世界は全てを知ることになった。
全ての人類がすぐに信じるには至らなかったという。テロリストが神の声を聞いたとかそういう類の聞くに値しない何かだと思われたというのもある。だが奴はどういう手段を使ったのか、各国の神にまつわる機密文書を公開した。
最初は知らぬ存ぜぬを貫き通していた各国であったが同時に後悔された各種疑惑を指摘する書類や裏帳簿による指摘によって先進国の一つが存在を認めた。認めてしまった。こういうものは全てが偽造でなければならない。一つが真だと判明されたことで、芋づる式に他の全ても真にされてしまうからだ。
こうして世界は神の実在を隠していた事実が明るみに出てしまう。
全世界、あまねく宗教が混乱に陥った
神に祈る意味はあったのだと感動する者もいれば、その神は何故争いを消し去らないのかと絶望する者もいた。あの全世界を混乱に陥れたケイオスやアイドルが神だなんて認めないと自身が信奉する神に世界を救うよう祈りを捧げる者もいたらしい。
日本も混乱していたらしいが、他国に比べればマシだという。
八百万信仰、精霊信仰、自然崇拝を軸にした宗教観のため、「そういう摂理だったんだぁ」とあるがままに受け入れていた。ケイオスはともかく、妹が神だということで「カワイイは正義」などと古典を引っ張り出して神だと認める発言も目立った。
むしろ、各種利権を指摘した書類の方が問題になった珍しい国だったという。