体力があるならいつか殺せる
妹の前では言えないが一つ確実に戦線離脱する方法があった。それはヘッドマウントディスプレイの電源を落とすことだった。強制的に終了状態に移行し、リアルへの帰還が果たせるだろう。
なら、何故それを行わないか。
妹がリアルに帰ることができないからだ。妹の身体はすでに灰になっている。意識だけが電脳世界に閉じ込められた状態だ。その状態でエネミーから襲われた場合、どうなるかわからない。何もないかもしれないし、そのまま消滅してしまう可能性だってある。分が悪い賭けでも、俺と桜庭の掛金が記憶だけならば挑む他なかった。。
「どう戦う?」
そもそもエネミー相手にゲームシステムに則った攻撃が効くのかどうか。
答えが出ず、静かに佇むエネミーの様子を観察していると一発の銃声が響いた。
俺らのものではない。違う建物に潜んでいた他チームのものだった。
放たれた弾丸はエネミーに的中し、ダメージエフェクトが発生する。それを見たそのチームはそのまま特攻を仕掛ける。二人が前に出て、一人が後方でロケットランチャーを構えていた。
それに合わせてエネミーも動き始める。その巨体に見合わない速さで距離を詰める。前衛からの射撃で大量のダメージエフェクトは発生するものの、それをものともせず進み、鉤爪を振るう。
その一撃で前衛二人が消える。
その勢いのまま、後衛のロケットランチャーを持つプレイヤーに狙いをつける。眼前に迫った時、ロケットランチャーがプレイヤーごと巻き込んで爆炎をあげる。粉塵が二つの姿を覆い隠す。風が粉塵を少しずつ晴らし、影を浮かび上がらせる。
それは鉤爪がプレイヤーの胴体を貫通し、持ち上げた姿があった。
それを投げ捨てるように放ると、違う建物に対してゆっくりと向かい始める。
「あ、あの建物の中、誰かいるよ」
妹がスナイパーライフルのスコープを覗きながら報告をあげる。
「今のうちに作戦を立てよう」
俺の提案に桜庭は「どうやって勝つつもりだ?」と問う。
「アイツがバグだろうがオカルトだろうが、ダメージエフェクトは出ていた。だったらダメージを与えていけば倒せる」
「世の中にはダメージ表記が出ていてもノーダメージなことが……いや、これ言い始めたらどうしようもないな。ならどうやって倒せるだけのダメージを出す?」
「むしろ、そこらへんは知識があるお前に聞きたい。……条件を付け加えるならば、とにかく短時間で大量のダメージを与えたい」
「それなら一つ思いつく。対人じゃオーバーキル過ぎて、ネタ動画でしか使われないような高火力なものが。ただ、今からだと時間がない」
ならばどうするかと思考を巡らせていると妹は立ち上がる。
「やろーよ。もう考えてる時間が勿体ないじゃん」
妹の言葉に従い、桜庭は作戦を俺らに伝える。
俺らは残り一チームがエネミーと戦っている間、手分けして物資を集め始めた。