当たり判定のない剣
ケイオスは自分の身体に眺める。手の平から肩、足先から胴、ゆっくりと視線を流す。
おもむろに手の先に白銀の剣を虚空から取り出した。それすらもゼロとイチのコードで形作られており、不格好であった。
それを放り投げる。
つまらなそうに放り出されたそれは縦方向に大きく回転し、放物線を描きながら障壁と重な、すり抜けた。そのまま円運動を続けたままのそれは無防備な妹に突き刺さる。
絶叫。
会場がつんざくような悲鳴に包まれる。
汐見とカレンさんはすぐに妹のもとへ駆け寄る。
妹は咄嗟に顔を庇う姿をしたまま固まっていた。
剣は胸を貫き、地面に突き刺さっていた。
汐見とカレンさんは妹の名を呼ぶ。諦めたくない想い、死に別れる恐れが入り混じっていた。
妹は呼びかけによって瞼開ける。
痛みに堪える様子はなかった。それが不思議なのか胸に突き刺さった剣をツンツンとつつく。それが指先に触れることはなかった。
ひょい。
そんな表現ができそうな横方向への小さなジャンプ。
突き刺さったはずの剣などなかったかのように跳べてしまった。
観客、汐見とカレンさんが見守る中、バツの悪そうな顔をする。
「いや、これ私のせいじゃないかんね!」
妹が叫ぶ。
「アイツの剣がナマクラなせいっしょ!?」
ケイオスは自らのコードと化した手を見つめる。
ふと目があった気がした。
「前に言った通り、決着は半年後だね。いっそ丁度いい」
見られていた。
影に飲み込まれた俺のことを見通していた。
「半年で身体を魔王として作り直す。お前もその間に鬼でも勇者にでも成ればいい。そしたら誂えた舞台で、歴史に残る殺し合いをしよう。ああ、魔王城がラストダンジョンなのはそういうことか。……どっちにしても今の世界の理は変わる。僕はもうそれでいい」
様子がおかしい。
繭に包まれる前の魂の猛々しさは何処へやら。
奴の魂は凪いでいた。
「僕はもう行く」
ケイオスの背後に虚空が現れる。
去り際、奴は俺を指差した。
「あまり過保護だと僕が喰っちまうからな」
それは誰に向けたものだったのか。
問い質す前に奴は虚空に消えた。
暴力性を向ける矛先が消えたら影は何故かすんなりと心の中に消えていった。
同時に心を満たしていたものも消え去り、目を開けていられない程の疲労に襲われ、意識を保てなくなった。
こうして初ライブでの襲撃事件は幕を下ろした。
俺の気絶という情けない終わりによって。