演者が揃う
スモークが張られ、レーザーが入り乱れる。階段状の観客席では各自が推したいメンバーのペンライトが音楽に合わせて振られる。それが万単位ともなれば壮観であった。観客の視線はスポットライトに照らされたステージ、アイドルを抜いたビデオスクリーンに注がれていた。
そこにはアイドルである三人の姿があった。汐見柚子、マイカ、シスターもとい元ヤンカレン。彼女らの歌声や手足の動きには一体感があった。やはり表現力においては汐見が何段か上澄みにいるものの、マイカもカレンの出来栄えも悪くはない。成長物語を与えられたり、アイドルとしての可愛げだったり、そういう芸術を取っ払った評価点は高い。
それにマイカとカレンさんの強みはそこではなかった。
それはトーク力にある。
歌と歌の合間にあるトークコーナー。
汐見が会話の回し役を担い、マイカとカレンさんがそれに合わせる。マイカが縦横無尽にボケとツッコミを担当し、シスターで元ヤンというキャラクター性を持つカレンさんが合いの手的にオチを引き受ける。客が盛り上がっているゆえ、汐見も安心して回しに専念ができていた。
それは舞台準備が必要な状況でも活きた。
汐見がサビを担当する楽曲があり、それまでのメロディー部分をマイカとカレンさんが歌うことになっていた。サビまでは汐見はステージ裏に隠れていて、サビに差し掛かったら派手に登場するという演出だ。
ゆえに歌が開始するまでにステージ上からハケなければならない。
この手のアイドルユニットでは中心となる人物がいなくなると盛り下がることが往々にしてある。理由はファンのほとんどがその人の推しだったり、話術が圧倒的だったりなど様々だ。
話題の流れからステージから去る演出を見せる形で汐見ははけて、二人残される。
次の楽曲の準備が始まるまで二人で間を持たせなければならない。
二人はやってのけた。
マイカが女王様ネタを持ち出し、さらに観客を煽る。豚と呼ばれたいファンはそれにまんまと乗っかり、求められればやってしまうサービス精神旺盛なカレンさんが求めれたことを百パーセントの出来でこなす。予想通りでわかり切った展開。だがそれがお約束ある。意外性なんて必要ない。ファンと長年かけて築き上げていくものをこの一か月の間に作り上げていた。
楽曲の後もライブは大過なく進んでいく。
途中機材トラブルで曲が途切れたりしたが、マイカが突然シャウトしてまるでそういう演出だったのだと思わせて一層盛り上がった。
こうして迎えたライブのエンディング。
ここまで来たらケイオスは現れないそういう空気が現場に流れていた。
一種の安堵であったように思える。
観客席頭上の空間に亀裂が入る。
前回の作戦で放送されていたエネミーが現れる前兆。ニュースで繰り返し流され、日本国民どころか世界中で知らない人はいない現象。
盛り上がったていた会場は、一瞬の静寂ののち、阿鼻叫喚の地獄に変貌した。