弁護人と名乗れば何やってもいいと思ってる
「そんでーアイドルになるためにアバターとか作るためにツール買って―そのベンキョーしてー色々巻き込まれて今に至るって感じかなー」
その色々は俺が知らないところで個人勢でアイドルデビューしたり、記憶を喪失したり、桜庭とのコラボで注目を浴びたり、大会であった「っしゃぁ! 倒したでしょこれ!」というMAD動画が流行ったり、汐見とのコラボがあったり、国民的犯罪者の妹だと言われたり、などだろう。
「もう少し早くシオミンに鞍替えしてたっての知ってたらもうちょいギャル寄りにしたんだけどなー。ともかく! にーちゃんは汐見なんてぽっと出の推しよりも、家族想いな妹を愛すべきだと考えるわけですよ!」
胡坐に頭を乗せた妹が手を伸ばし、俺の顔を自身に向けるように引っ張った。だらしない笑みが正面に来た。
「ぽっと出なんて酷くないかなぁ」
推しの声は明るく努めているが、どこか重く冷たかった。
恐る恐る妹の手をほどき、声がした方へ視線を遣る。静かに勝ち誇った面持ちの汐見がいた。素知らぬふりを決め込んだ工藤さんも見えた。
「マイマイは一つ勘違いしてるよ。お兄さんがそのストリートで足繫く通ってたのは今では姿形すらほとんどのの媒体から消えた人じゃなくて、汐見に逢いにきてたの」
「いやいや、あんたその頃デビューしてなかったでしょ。たしかにその直後ぐらいから名前よく聞くようになったけどさー」
「デビュー前の大事なひと時を過ごしたの。お兄さんは汐見のファン一号で、当時の悩みも教えてくれたりしたんだよ。マイマイはそういうの知ってた?」
あろうことかマウンティングを始めた。百歩譲って女同士がそういうことをするのは構わないが、俺を肴にするのはやめろ。男はこういう時無力なのだから。
「にーちゃん、それほんと?」
ほれみたことか。飛び火した。
しかも何と答えればいいのか皆目見当がつかない。
当時の俺は自殺願望持っていたとか身内に話す内容ではない。いや身内以外にも話す内容ではないのだが。それこそ当時の汐見のような互いに素性の知れない身の上でないと話すようなもんじゃない。
「あー、当時悩んでたことを話したのは本当だな」
妹は膝から降り、対面するように正座する。
「何悩んでたのさ」
「黙秘権を行使する」
「黙秘権は認められない。さあどうぞ」
「弁護人を呼んでくれ」
「本件の弁護人は私が務めます。だから私は貴方の味方ですからさあどうぞ」
「知りたいだけだろ」
「何を仰いますか。私はにーちゃんがつまらないことで占有権を主張されている方が見苦しいため、それを取り除いてあげようと助力を申し出ているのですよ」
「本音は?」
「ムカつくから教えろ」
呆れた。だが妹らしい。
「別に楽しい話じゃないぞ」
そう前置きして説明した。