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兄として家族として

 妹はよく俺に甘えるようになった。悪く言えばつきまとうようになった。身もふたもない言い方をすると態度が悪くなった。親から受けた愛情で増長した性格の面を俺の前でも見せるようになった。


 あまりの変貌ぶりに困惑し、両親が変なことを吹き込んだのかと思い問いただしたのだが両親も変貌ぶりに驚いていたようだった。ただ両親は今まで俺に対し遠慮がちだった妹がワガママを言うのを好ましく思ったらしい。「ようやく家族が一つになれた」なんて世迷言を言ってのけた。


 やはりそこに俺の意志はない。


 妹が変わった謎を放置したまま高校生になり、俺も丸くなった。


 相も変わらず友人はいなかったが、最低限の世間話をするぐらいの仲の人はできた。それこそ二人きりになった時に気まずくならないように天気の話をする程度だが。たまたま兄妹の話になったこともあった。そいつには姉がいるらしい。弟という存在は姉の下僕であり、完全服従であり、口答えは許されない。暴力に訴えかけないタイプの家庭内暴力を受けるものらしい。ゆえに妹がいる俺をそいつは羨ましがった。特に血がつながらないところがベストらしい。少し危ない奴だなと思った。


 ただそいつも又聞きであるらしいが妹というものはどうやら兄を嫌うものらしい。


 妹が突然なつくなんてありえないものらしい。


 猫撫で声を出す時はお小遣いをせびりたい時だけだという。


 なるほど、と思った。


 妹も小六、来年は中学に上がる。親からある程度の小遣いをもらっているにせよ、それだけでは足りないこともあろう。もしくは親にお金の使い道が問い質されないお金があると便利なのだろう。


 帰宅後、俺の部屋にあるパソコンのロックをどうにか解除できないか悪戦苦闘する妹に尋ねてみた。


「小遣いが欲しいだけなら頑張って甘えるフリしなくていいぞ。少しぐらいなら出してやるから」


 妹は解除する手を止めて俺の背後に立つ。


 思い切り蹴とばしてきやがった。折れた足がすっかり完治したのがわかるほどの威力であった。とても痛い。


「にーちゃんの馬鹿!」


 怒らせてしまった。しかし理由がわからない。何故怒ったのだろうか。小遣いが欲しいのではなかったのだろうか。他に俺に構う理由がわからない。ともあれ理由はわからないが怒らせたのなら謝っておこう。両親に泣きつかれては面倒でしかない。


 妹の部屋へ向かい、扉の前でノックする。


「なにが気に触れたか教えてくれないか」


 少しして「入っていいよ」と声がした。


 扉を開けると、物に溢れ、足の踏み場がない部屋が現れた。人が落ち着けるスペースはベッドの上だけ。ある程度片付いている場所はベッドの脇に置いてあるヘッドマウントディスプレイ周りだろうか。よく使うものだけはある程度整頓されていた。妹もお高いものゆえ、ちゃんとしなちゃいけないという意識が働いたのだろう。


 妹は布団の中に潜り、姿を隠していた。中で丸まっているのだろう。亀のようにぽっこり膨らんでいた。


 膨らみの横に腰かける。


「どうして怒ったか教えてくれないか」


「……本当にわからないの?」


「俺は人としては不出来だからな。言葉にしてくれなきゃわからない」


「私のこと命かけて助けたのに不出来なわけないじゃん」


「血は繋がらないけど兄だからな。妹のためなら命の一つや二つぐらい捨ててやるさ」


 黙ってしまう妹。


 また何か気に触れてしまっただろうか。


 しばらくして妹は目元より上だけを布団から出す。


 視線は外されたまま、尋ねられる。


「にーちゃんと本当の家族になるにはどうしたらいい?」


 本当の妹として認めてもらうという意味だろうか。


「そうだな……舞香が魅力的な人になればそのうち家族になってるものじゃないか」


 人として不出来過ぎて俺にはいい答えが思い浮かばなかった。人任せなクズ男の返答だ。


「例えば?」


「あーアイドルみたいに笑顔を絶やさない……とかかな」


「うん、頑張ってみる」


 妹の機嫌が収まったのを感じる。視線は合わしてくれないが、声色に刺々しさはなかった。


 部屋に戻ろうと思ったが一つ疑問が残っていた。


「お金目当てじゃないならどうして甘えてきたんだ?」


 妹と目が合う。心底呆れたような目であった。


「そういうところ本当嫌い」


 ゲシゲシと布団から足を出して蹴りを入れられる。


 じゃれ合いのような蹴りであった。

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