邪馬台国の謎に迫る
現実に戻ると、部屋に北御門が待機していた。無論、無断侵入である。
「みんな、ここをたまり場だと勘違いしてないか」
そう苦言を呈すも、陽キャイケメンである北御門は「もう今更じゃないかな」と取り合ってくれなかった。
「会長の部屋まで案内するように言われて来たんだ」
樹神さんの部屋。この旅館のどこかに部屋を取っているのだろうが、今まで赴いたことはなかった。だいたいはたまり場になっている俺の部屋で集まっていたからだ。妹はたしか女子会と称して何回かお邪魔しに行っていたはずだ。
「それじゃ、案内頼む」
こうして二人して廊下に出る。最上階までエレベーターを使って移動し、二部屋ない最上階の一室に入る。
そして目を疑った。
俺が寝泊まりしている部屋もスイートレベルで広いのだが、この部屋はそれ以上であった。おそらく百平米はゆうに超えるだろう。空間のデザインとしても和とモダンが調和しており落ち着きがある。最上階ということもあり、この里を一望できた。俺の部屋にもあった源泉かけ流しの風呂ももちろんあるし、サイズが一回り大きいときた。ロイヤルでスイートなお部屋であった。
そんな広い部屋の広い床に大量の書物を並べ、それを前にしてうんうん唸る樹神さんがいた。
「会長、お連れしました」
北御門が声をかけると「お、よう来たな」と笑顔で出迎えてくれた。
「樹神さん、これらはなんですか?」
「あーこれな、文献見つけたっていうたやろ。これがそうなんや」
「探せばあるものなんですね。どういう文献なのですか?」
「前にウチが神様なった経緯の話したこと覚えてるか?」
たしか村娘だった樹神さんがどこかの神様に見初められたという話だったはずだ。
「はい、だいたいは」
「これウチを買った師匠が残してったものやねん。一回も見いひんまま倉庫の中に押し込めとったやつ引っ張り出して送ってもらったんや。なにか役に立ちそうなもんあったらええなぁって軽い気持ちでな」
「なるほど。こうして呼び出したってことはいいこと書いてあったのですね」
何故か渋い顔をされた。
「良い報告とややこしい報告あるんやけどどっちから聞きたい?」
面倒ごとだ。そう直感した。
「ならどちらも聞かなかったことにしてください」
そう答えてそそくさと部屋から逃げ出そうとしたが「敏樹! 身柄確保や!」と指示を出されてしまう。上司からの命令で断れないのか申し訳なさそうに、けれど普段から慣れているのか手際よく俺は北御門に組み伏せられてしまった。
「横暴だ!」などという俺の意見は悪い顔をする樹神さんには通じない。
「良い報告もあるんやさかい。観念しい」
「そんなこと言ってまた面倒ごとに巻き込む気でしょう!」
「……堪忍な」
樹神さんは先に良い報告から語り始める。
それは過去に開闢の鬼道を用いていたという卑弥呼の資料が見つかったらしい。なんでも樹神さんを見初めた神様が過去に巫女――正しくは神使だが――として卑弥呼と盟約を結んでいたらしい。神様からは豊穣を、卑弥呼からは邪馬台国の信仰を、という形で。
卑弥呼はどうやら俺と同じタイプで魂の総量が多いタイプらしいのだが、同じ悩みを持っていたらしい。コントロールが苦手な点も苦手であれば、心の中にある不平不満が形を成して漏れ出そうになることもあったらしい。
それをどうやって解決したかについては書いてあることは確認したが、樹神さん的には分かりにくいものだったらしく後で一緒に実践するということで保留となった。
さて問題の悪い方である。
「今まで謎やった邪馬台国の場所とかも分かってしもうたんやけど、どうしたらええと思う?」
今なら工事現場から遺跡が発掘されても隠ぺいする業者の気持ちがわかる気がした。