シスターサンフラワー(仮)
遠慮がちに工藤さんが手を挙げる。
「あのう、わたしの芸名? どうしましょうか」
話が逸れていた。
「こういう名前にしたいとかはないのですか?」
「ええと、麗子って少し仰々しいからもう少し柔らかい名前がいいかな」
工藤さんの言わんとしていることはわかる気がする。麗子だと少しザ・できる女もしくは旧家の生まれ感が多少なりとも出てしまっている。かくいう俺も総司とかいう新選組にいた人と同じ名前ということで名前負けしてるじゃねえかと揶揄されたものであった。なんで美青年じゃねえんだよとも馬鹿にされた。俺だって美少年に生まれるなら生まれたかったわ。
「それでは女の子らしい可愛らしい名前にしましょうか」
そう提案したものの女の子らしい名前が思い浮かばず懊悩とする俺と工藤さん。
可愛らしさとは、一体なんなのだろうか。アイドルの追っかけをしていたが愛でるばかりで可愛さの真髄に触れようとしてこなかった俺と、記憶を失い可愛らしさに目覚めたものの月日が浅い元ヤンの工藤さんではどうもいい案が思い浮かばない。
そんな俺と工藤さんを見かねた可愛さがなんたるのかを知るトップオブアイドル汐見柚子が助け船を出す。
「工藤さんはどういう可愛さが好きなの?」
「ええと、お花とかナチュラル系なガーリーな感じが好きなのかな……?」
「いわゆるお花畑で映えるような可愛さが好きなんだね。いわゆる可憐と言われるような方向性かな。なら花の英名に、シスター要素加えてシスターローズとかそういう方向とかどう? あ、ローズは例ね。少し仰々しいから他の花にしよっか」
「お花……いいですね!」
花の見た目も名前も良く知らない俺は戦力外になったと理解し、その会話を見守る流れにシフトしようと決めた。俺と大して知識量が代わらない妹も自然とそうなるだろうと思われたが、自己顕示欲に勝る妹は蚊帳の外なのが気にいらないのか無謀にも突っ込んでいった。
「ヒマワリ! ヒマワリはなんていうの!」
どう考えてもパッと思いついただけの提案にも汐見は丁寧に答える。
「サンフラワーだね。シスターサンフラワーはちょっと由来的にも響き的にも主張激しいかな」
「むー」
妹は目の前にコンソールを開いて調べものをする。
「んじゃこれはどうよ!」
そう言って見せてきたのは青い花であった。ハンディモップのような形状で植物で、モップ部分に花が咲き誇っていた。可憐とはイメージが離れるものの綺麗な花であった。
「えーと、名前は和名で飛燕草かな」
汐見がそう言うと工藤さんは「そういう花もあるんだ。でも名前はそこまで可愛くないね」と苦笑する。
「英名が可愛ければそれでいいでしょ!」
そう強がって汐見が英名を調べる終わるのを待つ。
「英名は――デルフィニウム」
うん、可愛くない。
同じことを思った工藤さんも「次探そっか」と自身もコンソールを開いて調べ始めた。
打ちのめされた妹は「むきー!」とバンバンと床を叩く。どこぞの猿だろうか。
「可愛ければそれでいいんでしょ! なら可憐って名前でいいじゃん!」
あまりに乱暴な論理であった。知性の欠片すらない。
だがトップオブアイドルはそんな暴論を真に受けて考え込む。
「……アリかも」
「汐見さん?」と正気を心配してしまう俺。
「漢字じゃなくカタカナの響きなら受け入れやすいし、人名としてもそこまで違和感はないかな。シスターカレンでも語呂は良いし。これで行きましょう」
そう決断する汐見。
「ええと、工藤さんはそれで大丈夫です?」
そう尋ねると少し考えてから「サンフラワーとかデルフィニウムじゃなければ……」と首肯した。
すると満面の笑みで俺の肩を揺らす妹。
「私のネーミングセンスって凄くない?」
サンフラワーとかデルフィニウムとかを提案した奴と同一人物だとは思えない自信の持ち方であった。