修道女アイドル
汐見に説教のスケジュールを抑えられたところで妹が帰ってくる。見知らぬ誰かを盾にして帰ってくる。おずおずと、にじにじと、その誰かの影で俺を睨む。盾にされた方は困った顔を浮かべていた。
その見知らぬ誰かはシスター服の女性であった。栗色の髪にたれ目で物腰柔らかそうであった。背は妹と同じぐらいで小柄。教会で近所のガキンチョ達の初恋のお姉さんな物腰柔らかな雰囲気であった。盾にされたところなんて、神父に説教されたくないためにこの人を矢面に立たせている風景そのものである。
しかし、この人は誰だろう。
妹がプライベートスペースに入れているあたり、親しい間柄か事件の関係者であるとは思うのだが。
そう思っているとシスターが頭を下げる。
「あ、総司さん。わたしです。工藤です」
シスターは名乗り、合点がいく。
「工藤さんだったのか。となるとそのアバターは……」
「はい、マイカさんに作ってもらったですね」
「なるほど。清楚で可愛らしくて工藤さんピッタリですね」
「そう言ってもらえると助かります」
こうしてまた一人量産型アバター使いが減ってしまった。
あまりにも野暮なので言わないが、やはり少し寂しい。
「にーちゃんさ、作った私に何か言うことはないわけ?」
シスター工藤の後ろで妹が睨む。
「はいはい、偉いぞ」
「もっとちゃんと褒めて」
そう言われたら仕方がない。
「ベースは修道服みたいだが、本来の修道服よりもスリムに見えるように作られているな。スカートが膝丈なのは女子高生のような若々しさと可愛らしさが出ていると思う。顔の造形も癒し系を狙ったベースなのは工藤さんのイメージとピッタリだ。疲れた社会人にニーズが出そうなアイドルになりそうだ。うん、工藤さんの性格に合致していて可愛らしい出来だと思う」
「私が作ったものなのに、にーちゃんが人の女褒めてると思うとキモい」
なんと理不尽な。
「こっち方面の才能は認めているのだから素直に受け取れ」
「それは受け取るけど気持ち悪いものは気持ち悪い」
「それじゃあどうしろってんだ」
「……私だけを見てて!」
胸を張る妹からそのままスライドする形で工藤さんに視線を移し替える。
「そういえば工藤さんと汐見はちゃんと話すのは初めてでしたよね」
汐見は立ち上がり、工藤さんの前へ。
「はじめまして。汐見です!」
「ああ! どうもいつも拝見してます! 工藤麗子です! よろしくお願いします!」
気軽なスタンスを崩さないアイドルともはや単なるファンに成り下がるシスターはなんだかほっこりした。アイドルとまともなファンの交流は心温まる。うん、まともなファンに限るのだが。あとは子供との交流。これはどちらかというとわりかし子供の雰囲気に近いかもしれない。純粋さが溢れ出ている。野郎のやっすい紳士風カモフラージュも、重い気持ちを隠す女性ファンの淀んだ目もしていないから。
「工藤さんっていうんだね。よろしく」
ところで、と汐見は続ける。
「アイドルは本名でやるつもり? それとも名前変えるの?」
「え、あ、あー、名前変えた方いいです……よね?」
「探られたくない過去あるなら変えた方が無難かな」
「変えます!」
よほど元ヤンの過去を探られたくないらしい。