失わないために
妹に詰め寄るポンポコリンを一旦引き離す。意地になって離れようとしないポンポコリンであったが、尻尾を掴むと「ひゃん」という声をあげて、するすると引き剥がすことができた。直後、西野さんに「それ、狸の妖怪的にセクハラに該当するから外でやらないでくださいね」と窘められる。
「外でなければいいのですか?」
「三刀くんと更科さん、どちらが世界にとって大事な人物かと言われれば三刀くんだからね。人目につかなければ国家権力は君の味方だよ」
「逆に怖いですよ、それ」
「それだけ状況はひっ迫していて、君に縋るしかないの」
ポンポコリンが「反政府勢力になってやるぅ」と泣き言をのたまったのを無視して、妹にポンポコリンとシオミンの関係性を説明する。
呪術的アプローチで作られた人工知能がネットアイドルでシオミンだったなんて設定を盛り過ぎな下手な漫画のようである。これには妹もきっとすぐには受け入れられないだろう。「馬鹿にしてる?」とか言われても仕方ない。
「……つまりあのキス魔によるキッスは百合営業のビッグデータから割り出されたもの……?」
そんなことはなかった。
「お前、今の話を聞いてどうしてそんなどうでもいい話を考える?」
「はぁーっ!? 頬っぺたとはいえ乙女の純情奪われたんだよ! そりゃ考えるってもんでしょうが!」
「他に思うことなかったのか?」
「えーと、大昔に流行ったっていうバーチャルユーチューバーの本物が出る時代になったかーとかかな」
「お前に聞いた俺が馬鹿だった」
「むしろ変に気を遣わない妹の気遣い力に気付いて欲しいまである」
「年頃なんだから気遣いできる女アピールの仕方ぐらい覚えたらどうだ」
「知ってるし! 飲み会で野菜取り分ける女のことでしょ」
「もうそれでいい」
呆れて話を打ち切り、ポンポコリンの方へ向く。
「こいつ実は頬へのキスぐらいで騒ぐウブで馬鹿な年頃なんで見逃してください」
後ろから「馬鹿はいらないでしょうが!」と騒ぐ声が聞こえる。
ポンポコリンは若人のやらかしには優しいらしく「それじゃ仕方ないねぇ」と許してくれた。本人も過去にやらかしを経験しているゆえ悪気さえなければ懐は深いのかもしれない。あまり強く言えないだけな気もする。
さて話はまとまった。
あとはシオミンに会い、彼女の空っぽという言葉を否定する。
アイドルへの復帰だとか、アンジェラの当て馬だとか、妹とユニットを組んでもらう、それらは全てが終わったあとの話だ。
自己矛盾を抱えながら俺を救ってくれた彼女を今度は俺が救う。
これ以上、大切なものを失いたくなんかないのだから。