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妹、電脳世界の神になる〜転生して神に至る物語に巻き込まれた兄の話〜  作者: 宮比岩斗
1章 義妹と書いて偽妹と読む

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帰れと言われたら本当に帰るタイプ

 ライブチケットと己の恥を等価交換を見届けた妹は意気揚々と配信の準備を始める。


「こんなこともあろうかとサムネとか用意しといてよかったー」


 そんなことを言いながら俺に「どうせならにーちゃんにも見栄えするモデル作っておけばよかった。そしたら兄妹で活動できたじゃん」とか妄言を吐くことにも余念がない。まったくもってありえないことだ。俺は陰ながら応援する側の人間だ。誰かの前に立つなんてことは性に合わないどころか、そもそも向いていない。そういうのは向いている人にやらせておけばいい。でもだからといって友達がいないわけではない。


 そこらへんは重要だ。


「二人ともー配信始めるから、ちょっとカメラの外に外れててー」


 そういって部屋の端まで俺らを押し出す。


 カメラの前まで戻ると笑顔を作る。


「ども! みなさんこんにちはー! マイカです!」


 です、に合わせて簡単な決め顔を作る。


「半年ぶりかな? マイカを半年待った人はよくぞ待っててくれた、ご新規さんは今から始まる伝説を目に焼き付けろ! ま、とにかくみなさん見てってね。てか、いやー色々あって配信できなかったんだよねー」


 流れるように言葉が紡がれていく。リズム感だけで話しているのか聞いていて気持ちが良い。話している内容は空っぽだが、挨拶や雑談なんてそんなものだろうし、これを聞いているリスナーはマイカというアイドルが話していることが重要なのだろう。


「今日は復帰記念ということで超すごいゲストをお呼びしております!」


 そう言って俺ら二人を手招きする。


 俺は土壇場で出るのを躊躇ってしまった。しかし、そんなことはお見通しとばかりに桜庭に腕を引っ張られて強引にカメラ前まで連れて来られる。


 カメラの後ろにはコメントが見れるように設定しているらしく、俺ら二人が出てきたことで大きく分けて二つの反応があった。


 一つはプロゲーマーサクラバとのコラボで驚き喜ぶ反応。


 一つはその横で小さくなっている俺に対して「誰?」という反応。


 コメントという形で反応が可視化されている分、俺に対する反応が辛辣なものも多い。


「誰だよ」とか「どっかのライバーとか?」なら言われても仕方ないと思うが「誰が安物のアバター使って配信出んなよ」とか「そのアバター、俺のじいちゃんも使ってる」とかは関係ないだろと言いたい。そんなにワンオフ品が偉いか。量産型は凄いんだぞ。コスパ最高なんだぞ。お前らだってリアルじゃあ揃いも揃って量産型みたいな顔してるくせに。


 心の奥からおぞましい影が這い出ようとするのを感じ、いかんいかんと押し戻す。


 こんな輩相手にアイドルなんてよくやると妹を尊敬もとい畏怖の念を覚える。


「ほら次はお前の自己紹介だぞ」


 桜庭の自己紹介をまったく聞いていなかったせいで参考にする相手がいなくなってしまった。


 仕方なく俺は妹の配信だというのにテキトーをかますことを心に決めた。


「匿名希望。桜庭のリアル友人で、舞香の兄。今日はこいつらに無理矢理出されただけの一般人なので、数合わせと思ってていいです。あと俺のアバターを馬鹿にしたやつら、今から俺の敵だ。文句があるのなら掛かってこい」


 決してコメントに腹が立って八つ当たりをしたかったわけではない。ないのだ。


 隣で桜庭が「こういうところが素で愉快なんだよなぁ」と苦笑し、妹が「え、え、なんでリスナーさんと戦う流れになってんの? え、なんで」と慌てふためく様を見れたので多少なりとも溜飲は下がった気がした。

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