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ネカマショック

 妹が夜に行う配信に向けて準備している中、俺はブルースフィアにログインしていた。


 特に何か用があったわけではないが、時間が空いたので入ってみた。俺だとバレないよう量産型アバターで。数週間入らなかったうちにブルースフィアではイベントが始まったようでログインしたら様々な通知が飛んできて驚き、まともに読まないまま全て消し、最初の街でボーっと佇んでいた。


 ここ最近は朝から晩まで訓練し、休憩時間は誰かしら近くにいるため喋りかけられ、夕方から夜までは暇を持て余した妹の相手をしていた。つまり自分の時間が全くなかったのである。今まではボッチだったゆえ、ほぼ全てが一人の時間みたいなものだった。だというのに今は誰かしら人がいる。気分転換に観光地をぶらついてみても全国区で顔が知られてしまった以上、見知らぬ妖怪たちに「兄ちゃん元気かい?」などと挨拶されて気が休まらない。有名人になりたかったわけではないのに有名税を徴収されているようなものであった。


 おかげで下半身の世話すらまともにできずにいたら堂島さんが気を利かせて歓楽街に連れていってくれたのだが、そこは割愛しよう。


 そんなわけで久しぶりの一人ぼっちを謳歌していた。


 誰も自分を知らない街というのは心地が良い。


 少し前なら量産型アバターだと絡んでくる輩も多かったが、妹お手製アバターをお披露目したことで量産型アバターで出歩いても絡む輩は消え去った。これはありがたかった。おかげで一人の時間を堪能できている。


 趣味が人間観察といっても過言ではないぐらいには行き交う人々を眺めていた。


 眺めているうちに、こんなことを思った。


 ゲームの中にいる人間というものは二つに分類できる。


 笑顔と真顔である。


 前者は仲間とワイワイ遊んだり、ソロでも楽しげであった。ゲームをゲームとして楽しんでいた。いわゆるまともな人だといえよう。


 後者は惰性か本気かのどちらかに見えた。もはや遊びの余裕はなく、ただひたすらにモンスターを狩り続ける修羅のような立ち振る舞いであった。忌憚なき言葉で表すのなら危ない人であった。


 大昔のゲームは表情などを読み取らないゆえ廃人というものは気にならなかったのだろう。だが現代ではその表情、振る舞い全部がアバターに現れる。やばい人間が何を以てやばい至らしめるのかが分かりやすくなってしまった。


 良くも悪くも。


 昔、桜庭が言っていたことであるが、表情や立ち振る舞いが分かったことでネカマ界隈に大きな環境の変化を与えたらしい。昔はチャット上での可愛らしい振る舞いを真似ていれば問題なかったらしい。その少し後の時代にボイスチャット全盛になっても高性能なボイスチェンジャーを使えば乗り切れたらしい。だが今はアバターに表情や振る舞いが出てしまう。ボイスチェンジャーを使おうとも隠しきれない挙動不審さが出てしまう。これによってモテるネカマとモテないネカマが二分されたらしい。数少ないモテるネカマが全てを手に入れ、モテないネカマは諦めてネカマを引退していったらしい。


 これが俗に言うネカマショックである。


 外聞が悪いため企業が作るオンラインゲーム史に残されないが、プレイヤーには広く知られた歴史であった。


 もっともゲーム内でソロで遊んでいるやつは大体が不審者に見えてしまう。


 かく言う俺も、数時間ただぼさっと座って街行く人を眺めている不審者であった。


 さすがにそろそろログアウトしようかと考えていたら「久しぶり」と女性の声がした。


 振り返ると見覚えしかないブランド女がそこに立っていた。

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