ポンポコリン系クラッカー
旅館に戻ると部屋には西野さんと見知らぬ人が待っていた。その人は電脳科学庁の技術者と聞いていた。ゆえに里の外から来た普通の人間だと考えていた。だが人が持たない特徴を兼ね備えていた。
まずは人間的な特徴だが見た目は女性。明るい茶色のふわふわなショートヘアに、可愛い系の顔立ち。年は二十代半ばから後半あたりだろうか。上から下までビッグサイズな服で合わせてだぼだぼなファッションをしていた。
次に人が持たない特徴であるが、尻尾が生えていた。茶と黒の縞々でふわふわの尻尾である。触ったら気持ちよさそうな尻尾であった。ポンポコリンな尻尾であった。
ポンポコリンな女性は俺の姿を認めると手を振ってくる。
「やぁ~。君が三刀くん? 希代のテロリスト扱いされて大変だったねぇ」
のんびりとした口調で話す女性は技術者というイメージから程遠かった。俺の中のコンピュータエンジニアのイメージが映画で見るようなカタカタカタッターンのイメージしかないので、それが間違っているだけかもしれない。
俺が訝しげにしていると北御門が「更科さん?」と口にした。
「ああ! やっぱり更科さんだ!」
喜色を含んだ声を出す北御門に更科さんと呼ばれた女性は手を挙げて答える。
「やぁ~君も変わらないようでよかったよ」
退魔師である北御門と知り合いということは、やはり妖怪とかそういう部類の関係者なのだろうか。
「北御門、知り合いか?」
「うん。以前関わった事件の犯人だったんだけど話が合っちゃった人」
そう北御門が答えるのに呼応して更科さんが恥ずかしそうに両手で顔を隠す。
「若気の至りなんだから言わないでよぉ」
知り合いだとは考えていた。電脳科学庁の技術者だと聞いたから事件協力の方で知り合ったかと思いきやまさかの犯人だったとは恐れ入った。
「何やった人なんだ?」
「電脳世界上のトラブルで、相手の個人情報を調べて世界中に拡散したっていう事件があったんだ。やったのが妖怪だってことがわかって、まともな方法じゃ捕まえらんないからこっちに協力要請があったんだよ。そこで知り合ったんだ。腕が良いのを見込まれて、電脳科学庁に紹介されたって経緯かな」
更科さんが自分を指差す。
「ちなみに大会のデータから君と妹さんの関係性とか個人情報を調べたのも私なんだよぉ」
北御門が大学でシレっと俺と妹の関係性を口にしたのにはそういう裏があったのかと腑に落ちる。
「というかそんな人が俺になんの用なんだ? もう隠れてこそこそ探し回るよりも直接聞いた方が早いだろ」
更科さんは「どう言ったものかなぁ」と首の後ろをこする。そのうち悩むことに飽きたのか「ま、いっかぁ」と言って続ける。
「うちの大臣がさぁ、今更だけどぉこの事件に対してなんにも貢献できてないのが不味いと思ったらしくてね、妖怪の私が派遣されたんだぁ。まー何をすればいいか大臣も私もわからないままだからテキトーに指示出してくれたら、それやるよぉ」
なんとも他人任せな貢献度稼ぎであった。