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保護対象

 公的には妹が亡くなっているという事実。それは妹はアイドルとして活動し、信仰を集めるにあたり大きな障害になるだろう。たとえ本当の妹だと本人が弁明しても、リスナーはそうは思わない。騙されていたと感じる人が大多数だろう。


「舞香、気付かなかったのか?」


 妹はコンソールを弄り、青い顔をしていた。


「にーちゃん関連で通知うるさかったから切ってた……」


 コンソールを操作する手が震え、視線がさまよっていた。おそらく悪意を込められたメッセージを大量に見てしまったのだろう。そうなるのも無理はない。妹は今まで両親から一心に愛情を込めて育ってきた。友人も多いタイプだと聞いている。ぬくぬくと何不自由なく育った子供が突然の悪意に晒されればひとたまりもない。


「舞香、通知切ってしばらく何も見るな」


 悪意は悪意を呼び込む。距離を取り、縁を切る。それが一番の対策である。


「え、でもみんなの誤解とかないと……」


 震えた声であった。


「今は何しても叩かれる。対アンチのプロであるこの兄を信じろ。絶対に活動再開させて人気を戻してやるから」


 妹は太陽のような子になった。明るく朗らかで影のない性格。


 俺は数多の悪意から守ってきた。兄として。影となって。


 それは泥をすすることになっても成し遂げる価値のあるものだった。


「……うん、わかった」


 妹は通知を切る操作をしてコンソールを閉じる。


「せっかくゆっくり考えられるいい機会だ。誰かユニット組みたい人がいないか考えてたらどうだ?」


「うん、そうする」


 声の震えは収まっていた。


 俺は皆に言う。


「悪いですが俺からも条件をつけさせてもらいます。舞香を再び活躍させる環境を全力で整えること。それが俺から出す協力の条件です」


 樹神さんは優しい顔をする。


「そんなん当たり前やんか。アンちゃんも妹ちゃんもどちらも助けるし、幸せにしたる」


 西野さんが続ける。


「当ったり前じゃないですか。むしろ世界を救うぐらいなんだから一生贅沢しても許されますよ!」


 堂島さんも笑みを浮かべる。


「これでは相方となるアイドル探しに協力を惜しむ訳にはいかなくなったな」


 皆が北御門に視線を移す。


「え、これ僕も言う流れ? 僕は言うことないかな。だって神様も人も協力してくれるんだよ。それで叶わないことなんてないさ」


 樹神さんが嘆息をつく。


「そこは僕に任せといて、とでも言えば格好ついたやろ」


「えー! 僕はしがない退魔師ですよ! 切るしか能のない人間ですよ!」


 なかなか物騒な取柄であった。


 西野さんが俺の肩に手を置く。


「あの子がああ見えて一番価値観ぶっ飛んでるから気を付けてね」


「価値観がおかしい奴には慣れてますので大丈夫です」


 桜庭で慣れている。さすがに記憶喪失の彼女すら別れることを認めず付き合い続けた剛の者と知った時は少し引いたが。


「そういえば桜庭は行方不明ですが、その幼馴染は無事ですか?」


 桜庭に目的があるとするならば工藤さんの記憶を戻すことしか考えられない。ならば彼女も連れ去られている可能性がある。


 この疑問には堂島さんが答える。


「桜庭さんの裏切りが発覚した直後に保護した。実はこの旅館の近くにいるが会ってみるか?」


 これに真っ先に食い付いたのは妹であった。


「会いたい! 今すぐ連れてって!」


 妹も工藤さんの安否が気になっていたのだろうとわかる食い付き方であった。ただ、その瞳は何かを思いついた色をしていた。

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