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高度なアドリブは計画にしか見えない

 今までの流れを追ってわかった。


 仕組んだにしては偶然の要素が多すぎるのだ。


 まずは神に至るための権利を奪い、誰かに押し付けることだ。ここが全ての起点となる。桜庭が押し付ける光景を目撃すること、妹が押し付けられること。この二つが起点だ。


 桜庭がおらず、妹も記憶を失っているゆえ、当時の状況は不明だ。もしかしたら桜庭だけ、妹だけ、もしくは両方が狙い、全てのパターンが考えられる。


 そこからが問題だ。


 桜庭の幼馴染である工藤さんがアンジェラに襲われること。


 妹が俺に連絡を取ること。


 この二つは確率でしかない。


 それから起きる大会でアンジェラを撃退すること。俺がアンジェラの神使になること。仲間を集いブルースフィアでアンジェラを襲い、俺とアンジェラが倒した仲間を取り込むこと。討伐作戦で桜庭を味方につけ、アンジェラを取り込むこと。それらは迂遠であるが、確実に奴の野望に近づいていった。


 全てを含めれば天文学的に分が悪い賭けでしかないその流れを奴は仕組んでいたというのだろうか。


 妹は俺の疑問にあくびをする。


「考えすぎでしょ。ほとんどアドリブっしょ」


「いくらなんでもアドリブでここまで大事にするか」


「考え無しでやったからここまで大事になったんでしょ。最初に考えてたことだって、どうせプロゲーマー味方にしたいなーってことぐらいだったでしょ、絶対。馬鹿同士響き合うものがあるからわかる。ほぼ勘だけど」


 妹のそれは暴論であるが、一応の筋は通る。


 全ては桜庭を味方につけるため。そう考えると工藤さんの記憶を本当に奪ったのがアンジェラではなく奴であったと考えることもできる。あとは全てアンジェラに対抗するためだけの行動。その場その場で適格な嫌がらせをしているだけともいえた。


 それに妹の勘は当たる。


 樹神さんがパンと手を鳴らす。


「ま、ここで悩むことやあらへんな。答えわからんし。大事なのは妹ちゃんが納得して協力してくれること。ちゃうか?」


「……その通りですね」


「せやろ。んで妹ちゃんは話聞いて協力してくれるか?」


 妹はいつになく真剣な顔をする。


「あのアンジェラっていう精霊の子を生き返らせてくれたら協力します」


 アンジェラは取り込まれた。取り込まれた者を生き返らせる方法はない。そうアンジェラは言っていた。


 なのに樹神さんは「わかった。なんとかする」と言った。


「樹神さん、なんとかする方法があるのですか?」


「正直わからん。ただ、あの真面目な子がなんにも準備も対策もせずに戦ったとも考えにくい」


 妹は樹神さんに再度尋ねる。


「最大限の努力はしてくれます?」


 樹神さんは白い歯を見せた。


「お姉さんに任しとき。なんとかしたる」


 こういうところが天樹会をまとめる力になっているのだろう。樹神さんあっての天樹会。彼女ならばなんとかしてくれる。そう感じさせる理屈ではない何かがあった。


 妹の協力を取り付けることにより、俺が世界を救う勇者になることが決まった。


 具体的にどうするか。


 その話を始めようと西野さんが仕切り出そうとするも北御門に待ったを掛けられる。


「話の腰を折っちゃってすみません。ただこれは三刀さんと妹さんに教えとかないといけないと思って……」


 北御門が俺と妹に見えるように携帯の画面を見せてくる。


 そこには俺の詳しいプロフィールが掛かれていた。生まれや育ち、住所、家族構成、通っている大学など他人が知りうる情報は全て記載されていた。無論、そこには妹が去年の冬に亡くなっていることも記されていた。


「妹さんって三刀さんの妹だと公言してたよね。ただでさえ今回の件で炎上してたけど、実は三刀さんの彼女だったんじゃないかとか、亡くなった妹を利用するとは何事だとか、で今大変なことになってるんだけど……」


 世界を救う勇者になるはずだというのに、どうやら世間様はどこまでも俺のアンチでいるらしい。

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