貧乏学生の味方
こいつが本当に妹だとしても、簡単に認めるのはそれはそれで癪に障る。
もし妹だと認めた瞬間、煽り倒されるのが目に見える。だから、こいつの応対は偽物のままを継続する。機を見て、妹と認めればいいだろう。
「何しに来た?」
外出を諦め、ベッドに腰かけて尋ねる。
「サクラバさんがやっぱり今日から調査したいって。んでにーちゃん呼ぶなら、私が呼びに行くって流れで来たんだけど」
「別に今日からじゃなくていいだろう」
「それはサクラバさんに言ってほしいかなー。私は伝令だし」
結局、手掛かりを手に入れたから居ても立っても居られなくなったということだろう。
「……今日はまだ何も腹に入れてないんだ。それぐらい待てるか?」
「んーいんじゃない? なんなら私からメッセぐらい送っとくけど」
「そうしてくれ」
返事してから何を食べるか考える。
一回腰かけてしまったことで、どこかに出かける気が失せてしまった。
ありもので作ろうと考えて、家にあった食材を思い出すも、一種類しか選択肢がなかった。
「しょうがないな、アレにするか」
そう言って立ち上がり、鍋に水を張り、火にかける。沸騰するまで携帯でも弄って待ち、それから放射線状にパスタを入れる。適当に時間が経ったら、一本だけ食べてみて、中心に針先ほどの芯が残っているのを確認し、ざるにあけて水気を切る。
あとは皿に盛りつけて、ソースとなる調味料を持って机に戻る。
「ニーちゃん、パスタ食べるの――具もソースもなくない?」
「何を言っているんだ。これがあるじゃないか」
そう言ってオリーブオイルの瓶を見せる。
オリーブオイルをパスタにかけてかき混ぜて「ほら、完成だ」と見せつける。
妹は若干引き気味に、そして心配するような目をする。
「……お金ないの?」
「単に節約してるだけだが?」
「ちゃんと食べなよ。身体壊すよ」
「サプリメントは飲んでるから大丈夫だ」
「……ああっ! 身体が火葬されてるのが悔しい! 身体さえあれば、記憶にないけどパパとママにこの惨状を伝えるのにっ!」
頭を抱えてディスプレイの中をのたうち回る妹は、見ていて愉快だった。
「いや、待て、待つのよ舞香。これはにーちゃんの食生活を治すことが私がこうなった使命なのでは?」
「そんな使命で死なれてたまるか」
そんなとりとめのない会話を食事中ずっと繰り広げ、いつもより時間が掛かった。
電脳へ向かう準備を整えつつ妹に「どこで待ち合わせなんだ?」と尋ねる。
「にーちゃんは知らないだろうから私が連れてく予定。だから、ここに来てくれればいいよ」
「わかった。ちょっと待っててくれ」
ヘッドマウントディスプレイを被り、ベッドに横になる。
それを起動すると、意識は闇に引き込まれていった。