不死者を操りし者
何体いるのだろうか。
ざっと数えると、下級不死者が10体ほどと、中級不死者が3体。
それだけでも絶望的な状態なのに、一定時間移動不可、一定時間マオ詠唱不可となる麻痺のバッドステータスをはられている。
この状況をつくりあげた張本人は、ゆっくりと、最後に現れた。黒いフード付きのローブを被っている。手には禍々しいデザインの杖、そしてフードから覗く顔は、髑髏。
カイとグレンはお互いの背を合わせる形で立ち上がった。
「私はリッチ。不死者を束ねし者」
表情のない髑髏がカタカタと動きながら、声を発している。
「そして、お前たちを消し去る者だ」
リッチが杖を軽く掲げると、不死者たちは一斉に行動を開始した。これまでと違うのは、動きが統率がされていることだ。
こんなところで死んでたまるか!2人の気持ちはまだ折れていない。
グレンが大剣を正眼に構え、カイの瞳が紫に染まる。
1番近くの下級不死者たちを視界にとらえる。
下級不死者A:6x+12=0
下級不死者B:8x-56=0
下級不死者C:7x+49=0
下級不死者D:4x=-24
この程度なら一気に。
下級不死者A:x=-2
下級不死者B:x=7
下級不死者C:x=-7
下級不死者D:x=-6
数術のリストが広がる。ここは、
「ファイアボルトッ!」
杖の先端に収束された赤い輝きが、炎となって4体に駆けていく。その瞬間、下級不死者たちを守るように、中級不死者2体が素早く身を寄せあい、装備しているみすぼらしい盾を一斉に構えた。
ゴォォォォオオォォ。
ファイアボルトの炎が燃えているが、もともと耐久力がある中級不死者たちに、致命的なダメージは与えられない。そして、下級不死者たちはノーダメージ。
後ろからも不死者たちが迫っている気配がする。
背後はグレンに預けているが、防戦一方でどこまで持ちこたえることができるか・・。もう少しで麻痺が解除されるはずだから、そこから一気に攻撃に転じるしかない。
とりあえず、盾になっている中級不死者たちをどうにかしなければ。
中級不死者A:x^2+3x-40=0
中級不死者B:x^2+5x+1=0
くっ、これは時間がかかりそうだ。先に防御を固めた方がいいか。
カイは杖を地面に突き立て、
「守護方陣、プライムフォースッ」
青い光がカイとグレンを包む。プライムフォースは一定時間、敵からのダメージを軽減する。
数学師の装備では、中級不死者の棍棒の攻撃にいつまで耐えられるかわからない。プライムフォースでしばらくは、ダメージの心配はないだろう。
そのとき。
「アンチプライム」
リッチの持つ杖から、黒い闇が放たれる。その闇に呼応するように、カイとグレンを包んでいた青い光はその輝きを弱め、そして、完全に消えた。
バフ解除の数術、アンチプライム。
「ファントムボルト」
畳みかけるような、連続詠唱。今度はヤツの杖から黄色い電流が走り、カイとグレンに命中する。もう少しで解除されるかと思われていた麻痺効果が上書きされた。
背後で、グレンが激しく抵抗する気配がする。
「カイ!諦めるな!まだ、できることはあるはずだ!」
グレンが励ます声が、遠くに聞こえた気がした。カイはそれほどまでにショックを受けていた。
まさか、数術を使う魔物がいるなんて。しかも、効果的にバッドステータスを付加してくるし、連続詠唱もこなしてくる。こんなことがあるなんて・・・。
ふと顔を上げると、醜く朽ちつつある中級不死者が棍棒を横に振り払うところだった。
ドゴッ。
ザザーーーッ。
カイは中級不死者の棍棒に打ち付けられ吹き飛ばされる。
「カ、カイ!だ、大丈夫か!?くっ」
必死に大剣を振り回すグレンを手強いとみたのか、不死者たちがグレンに集まってきた。
どうしたら・・・どうしたらいいんだ。
そのとき、森のどこかからか、声が聞こえた。
「君はまだ、数術のことを知らなすぎる。この程度の魔物に後れをとることはない」
やけに大人びた、落ち着いた男の声。それは、非難ではなく、励ますようにカイに響いた。
「見せてあげよう。本当の数術の力を」
読んでいただき、ありがとうございます。
評価等いただけると励みになります。