世界樹の森 出発
「トゥ、ムーヴ!世界樹の森!」
白い光が、カイとグレンを包むと、カナトスから2人は消えた。
オーブの柱がある場所へ瞬間移動する呪文、トゥ、ムーヴ。リホームと同じように、この異世界では便利な呪文だ。代償は距離にもよるが、カナトスからなら白オーブ小が2個必要になる。そして、帰りのリホームにも、同じ分だけ必要になる。
革袋を確認すると、白オーブは23個になっていた。
このようなオーブの力を使用した呪文をここでは、マオ(Magic of Orb)と呼んでいる。マオは、生活を便利にするようなものばかりで、戦闘用のものは存在しない。
この異世界で、魔物を相手にしたデバフや味方へのバフ、遠距離攻撃数術、近接攻撃数術を使用できるのは、数学師だけだ。そして、数学師は誰でもなれるわけではない。聖痕という、痣がある者だけが数術を扱うことができる。
また、数学師は数眼をもち、魔物に重なるように数式などが見える。魔物と対峙したときに、数学師が数眼を発動したらその瞳は紫色になるという。カイは自分の瞳を見ることができないが、グレンが確かに紫色になっていると言っていたことがあった。
「さて、じゃあ、世界樹に向けて進みますか?」
陽気にグレンが言う。
「とりあえず、行けるところまで行こうか」
世界樹に辿り着いた者はカイたちが知っている中では、いない。それは、世界樹の森が世界樹を中心として広がっていて、その樹海の広さは富士の樹海を凌駕する。世界樹に近づけば近づくほど、雑魚の魔物も強く多くなっていく。そして、トロフィーと言われる魔物に遭遇しやすくなる。トロフィーは一般の魔物よりも知能が遥かに高く、言葉を理解している。そして、倒すと逸品物のアイテムを落とす。今回の目的の1つは、その逸品アイテムだ。
「カイ、危なくなったら、リホームするのに躊躇するなよ」
「そっちこそ。意地になりやすいのはグレンだろ?」
そのとき、左右の大木の影から、うめき声が聞こえてきた。
「オオォオォォッ」
「きなすったね」
「おう、2匹かな?たぶん、下級不死者だろ」
カイの予想は的中し、下級不死者が現れる。カイの瞳が紫に転じる。
下級不死者A:5x=15
下級不死者B:3x=18
「グレン!ここは俺が一気にやるよ?」
「オッケー!もしものときのサポートは任せろ!」
今日はグレンもいるから、一気に決める。xの係数に注目すると解は、
下級不死者A:x=3
下級不死者B:x=6
目の前に数式とともに、数術のリストが出てくる。この中で最も有効な数術は、
「ファイアボルトッ!」
杖の先端が赤く輝き、その輝きは炎に変わる。次の瞬間、緩慢な動きでこちらに向かってくる下級不死者へ、炎が軌跡を残しながら、駆けていく。
「グォオォォッ」
命中。炎は下級不死者の肉体全体に広がる。アンデッド系に炎が有効なのは、もはやお約束。
炎に焼かれながら、下級不死者たちは白い光に包まれる。どうやら、ワンキルできたようだ。
「さすが、数学師様!攻略が楽で助かるよ」
「敵のレベルが低いからだろ。レベルが上がったヤツらが相手だと、ファイアボルトくらいじゃ倒せないだろ」
「そのときは、このグレンが自慢の剣で叩き切ってやるさ」
「詠唱(解法)の時間稼ぎも頼むよ」
転がっている、白オーブ小を1つずつ分ける。2人は森の奥に進むため、勇ましく足を踏み出して行った。