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酒場シグマにて

「ルビー酒中1つちょうだい!」

「おすすめ焼き鳥セットになりまーす!ルビー酒大はこちらのお客様ですかぁ?」

今日も酒場シグマは客と店員の掛け声で溢れている。いくつもあるテーブル席はほとんど埋まっているし、カウンターも密度が高めだ。カイはルビー酒を煽りながら、お気に入りの肉の煮込みに舌鼓をうつ。

ルビー酒は、つまりビールによく似た味とルックスをもった飲み物。現実世界の日本におけるビールと同様の地位をルビー酒はここで確立している。

肉の煮込みは、トマトをベースとした料理で、ビーフシチューのような料理だ。その日仕入れた牛肉をサイコロ大に切り、ニンジンや玉ねぎを中心に旬の野菜とキノコなどといっしょに、しっかり煮込んでいる。肉は柔らかく、野菜は形を留められず溶けたものと、ギリギリでその名残がわかるものがバランスよく共存している。煮込みには、カリカリに焼いたガーリックトーストが、2枚ついてくる。

それを熱々の煮込みに浸けながら食べると・・・こたえられない。

ふぅふぅ言いながらガーリックトーストを1枚消費したときには、ルビー酒はなくなっている。

忙しく焼き鳥を焼いているマスターが、少し顔を上に上げた瞬間にタイミングを合わて、

「マスタァ!おすすめ焼き鳥セットと、葡萄酒ちょうだいぃ!」

「あいよぉ!オウ、シータ!数学師さんに葡萄酒先に出してあげなぁ!」

「はぁい!」

説明しよう。シータとはこの酒場シグマの店員である。セミロングの黒髪をポニーテールにまとめ、あの有名アニメのヒロインと同レベルの性格の良さとそのルックスで、シグマの良心とかシグマのオアシスと影で呼ばれている看板娘である。その人気は天空の城を落とす勢いであり、ファンクラブがあるとかないとか。

「おまたせしましたぁ!葡萄酒です。カイさん、今日もありがとうございます」

最上級の笑顔でシータが話しかけてくれる。自然とこちらも笑顔になってしまう。

「ありがとう。今日も忙しそうだね」

「おかげさまで。今日も冒険に行ったんですか?」

「いや、今日は1人でゴブリン退治だよ」

「そうだったんですか。お疲れ様でした。成果はどうでしたか?」

「20匹くらいかな。倒すよりも見つける方に時間がかかるよ」

「わぁ、すごい。1人で20匹なんて、さすが数学師ですね」

さっきもマスターが「数学師」と言ったときに、自然と集まった注目に、カイはもう慣れていた。この世界で最も珍しいスキル数術を使用できるのが数学師。その力は、RPGで言うならば、魔法使いと僧侶を合わせたようなものだ。数学師は特別なスキルで、敵対相手に重なるように数学的な問題が見える。その問題を解いていく過程で、不思議な力を使うことができる。たとえば、敵の動きを一時的に止めるクリアグリーンもその1つ。この世界で、超常的な現象をうみだせるのは数学師だけ。ゆえに、良くも悪くも注目を集めてしまう。

「シータ!5番テーブルにルビー酒中4つお願い!」

同僚の店員からの声がかかる。

「あっ、じゃあ、カイさん、今日もゆっくりしていってくださいね」

「ありがとう」

膝下ほどのスカートを翻してシータがカウンターの中へ入っていく。それを眺めていると肩を少し強めで叩かれた。

「オッス、今日も来てるな!カイ!」

「おー、グレン!調子はどう?」

「今日はoffさ!1日ゆっくりしてたよ」

「デートでもしてたんじゃないの?」

「カイと違ってこっちは肉弾戦なんだから、休息日も必要なの!」

グレンは腕のいい剣士だ。よくパーティーを組んでダンジョンに潜る。長い付き合いで、この世界に来てから1番の親友、戦友と言える。

「僻むなよ(笑)次はいつ、一緒に行く?」

「明日でもいいぜ」

「じゃあ、明日一緒に行こうか。どこに行く?」

「森でどう?」

「オッケー。10時に時計台のとこでどう?」

「いいぜ!そうと決まれば乾杯しよう!マスタァ!グラスもう1個ちょうだいぃ!」

威勢よくグレンが言う。

「あいよぉ!」

すかさず空のグラスがもう1つやってくる。

「っていうか、俺の酒なんだけど」

「カイは葡萄酒1瓶飲みきれるの?」

空のグラスを揺らしながらグレンが言う。

「はいはい、どうせ1瓶は飲みきれませんよ」

トクトクトクトク。グレンのグラスに葡萄酒を注いでやった。

「じゃあ、乾杯っ」

こうして、シグマの夜は更けていった。

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