ローズヒルデは逃げられない!!
「転生者キターーーーーーーーー!!」
あまりの大きな声に驚いてしまったが少し離れている何事にも動じない侍従で宰相の息子・ユン様の方ががビクッと体を震わせているからよっぽどの叫びなのだろう。
しかし王子のセリフ、オタクっぽくない?
いや寧ろ一昔前のオタクだ。
超美麗な王子が言うと違和感しかないんだけど・・・ってメッチャ小躍りしてるぅーーーー(驚愕)
ほら、ユン様が見たこともない王子を見て人を殴り殺せそうなくらい分厚い本をびっくりして足に落としたけど気づいてないくらい固まってますが⁉
つーか、小躍りヤメロ。
これは関わってはいけないと私の本能が言っている。今ここでOL時代に身に着けたスキル「場を乱すことなく退席」を使う時!!
「ローズ、何処へいくんだ?」
すっとその場から遠のき扉を出ようとしたら後ろから肩に手をかけられてしまった。
ギギギギギと錆びついたロボットのように振り向くと有無を言わせない笑顔で止められる。
しまった!ローズヒルデは逃げられない!!
えへへと青くなって笑うと体を殿下の方へ振り向かせられ両肩を手で押さえられながら
「ここから逃さないよ」
・・・違うシチュエーションなら悶えそうなセリフを言われたけど今は草食動物を狙う肉食動物の一言にしか聞こえない。
さらに顔を青くしていると私の肩から手を放し部屋の一角にある鍵のかかった机の引き出しから厚めのノートらしきものを殿下が持ってきてそのノートを見せてくる。
表紙には「転生者㊙ノート」と書かれてある。
「見たまえ、これは転生者に関する事が書かれているノートだ。世に知れている事柄や私個人が調べて書き記している素晴らしいものだ!(ドヤァ)」
オッドアイの目をキラキラさせて殿下はさらに続ける。
「先ほど君は"日本"というワードを言ったな。それは転生者が事情を聞かれた時に高確率で言う言葉だ。
・・・さて、ローズヒルデの記憶から引き出せると思うが我が国には何故か転生者がよく出現する。それも老若男女関係なくだ。しかも前世はどこの国なのかと問うと大体"日本"という国だと言うんだ、不思議だろ?」
確かに私の奥底にあるローズヒルデの記憶を見たのと同じだ。
ただどうやら彼女は転生者の事を良く思っていなかったみたいなのだ。
なのに自分が転生者。
奥底に眠っているローズヒルデはどう思っているのだろうか。
「未だ分からない事も多いが転生者は前世の記憶を持っているが故に国で保護し記憶を調査、有益であれば前世の知識を国の繁栄に繋げていっている。
まあ、これが一般的な常識として貴族から一般市民まで知っている事だ」
ここまで一息で話した殿下は一呼吸おいてまた話しだす。
「だ・が・な!私はもっと、もっと転生者の事を掘り下げて知りたいのだ!彼らの生活パターン、嗜好、身体的なもの全てを知りたい!未知を知ろうとする、ロマンだよロマン!」
拳を握り熱く語るその姿は前世で見たオタクそのものだ。
そう、殿下は立派な転生者オタクである。
「分かった、分かりましたから近い近い!」
熱く語りすぎて鼻先15cmまで詰め寄っている殿下を押し戻す。
ハッと我に返った殿下が少し恥ずかしかったのかコホンと咳をして
「ローズは転生者の事を毛嫌いしていたな。しかし転生者となったのだ。少しはそれも薄れるのではないか?」
「・・・さあ、今しがたの事なのでまだよく分かりません。殿下の知っているローズヒルデは奥底にいて今の意識は全て前世?の私なので」
「そうか!ローズはそのパターンか!転生者と気づいた者は意識が前世だけになるのと今世だけになるのと混じり合うのとの3パターンあるのだ。これはデータが増えたぞ!」
頬を上気させ夢中に何かをノートに書き込んでいく。美形なだけに残念な感じになっている。
「いいぞいいぞ!もっと聞かせてくれローズ!」
「ひやぁぁぁぁぁ!」
ノートから顔を出し喜々として迫ってくる美形ほど怖いものがあるだろうか。前世の私には無かった。無かったんだよ〜(泣)
「ストーーーーーップ!」
私と殿下の顔の間に手を差し込んでユン様が制してくれる。
「ジュリアン様いい加減にしてください。ローズヒルデ様が怖がっていますよ。あれほど素を出してはいけないと言ってるではないですか」
「むっ」
「いいですか、ローズヒルデ様は先ほど転生者の自覚をしたのです。急にあれこれ言われても話せませんよ。せめて明日以降になさい」
「・・・仕方ない。明日執務室に来てくれ」
「・・・はい」
「ああ、記憶を取り戻した時どんな感じたったかレポート持ってきてくれてかまわないからな。あとローズと前世の自分の体の違いとか・・・ぐはっ」
「ジュリアン様!だからいい加減にしてください!」
暴走気味の殿下を鉄拳制裁しての止め方は侍従としてどうなのかはあるけどただのオタクだったら正解なの・・・か?
頬をおさえうずくまる殿下を足元にユン様が退出を促すので礼をし後にする。
屋敷に戻り自室の長椅子でボーッと横たわり何で転生したんだろうとか前世の私はどこまで生きたんだろなどぼんやり考えているとバタバタと廊下から足音が二つ近づいて来るのが分かる。
「ローズ!」「姉さま!」
バーンと乱暴に開けられた扉を見るとローズヒルデの兄と弟が怖い顔をして立っていた。
「兄さま、ユリウス」
ボケっと二人を見ているとローズの両脇に来て嘆き始める。
「王宮から帰って来たら元気が無かったと聞いたがまたあのクソ殿下に何か言われたのかっ⁉」
「姉さまあのクソ殿下のところなんか行かないで屋敷で僕と一緒に居ましょう!」
手を取り嘆き纏わりつく兄弟に落ち着いてと促し
「兄さま、ユリウス。殿下をクソ呼ばわりはいけませんわ。誰かに聞かれたらどうするのですか」
「ここはウィステリア邸だ。バカ殿下の事を話しても問題無い!」
うわー、クソとかバカとか低評価だな殿下。
「ローズの気も知らずまた冷たくされたんだろ?」
「そうですよ!姉さまも早く婚約破棄すればいいんですよ!僕が・・・僕が他の家に生まれてたらさっさと攫うのに!」
「私もだ!」
この兄弟さらりと怖いこと言ってないか⁉兄弟愛が突き抜けてる気がするんですけど⁉
「お・・・落ち着いてくださいな。今日の殿下はいつもと違い熱い方でしたわ」
「「へっ?」」
ぽかんとする二人に平気だからとユリウスの頭を撫でると私もと言うので兄さまの頭も撫でる。・・・・・・何だコレ。
戸惑いローズヒルデの記憶を覗くとこれが通常運転らしい。
ヤベェ、ウィステリア家。
よしよしと撫でられるのを満足したのかご機嫌になった二人は部屋を出て行くとどっと疲れが出て長椅子に突っ伏す。
(だぁぁぁぁ、何なんだ⁉)
急に転生して前世の記憶が出てきたから気持ちの整理をしようとしていたのに兄弟の愛の重さまで付いてくるとは・・・
奥底にいるローズヒルデは記憶を見せても気持ちは応えてくれないしどうすればいいんだろう。
悶々としながら次の日執務室に赴くとあの㊙ノートとペンを持って待ち構えている殿下に遭遇するのであった。