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7話・作戦会議


「ロマーノ小父さまも色々と大変ですね」

「まあね。キャピュレット家と、モンタギュー家の確執には本当に困るよ。同じ伯爵家同士、仲良くしてくれないものかね?」


 ヴァローナ大公殿下のもっぱらの悩みの種は、反目し合うモンタギュー伯爵家と、キャピュレット伯爵家のこと。以前、世間を騒がせていたモンタギュー家の悪童はなりを潜めたというのに、一向に両家の諍いは収まらなかった。


 最近では、街角で若衆が顔を出くわすと、罵り合いから殴り合い、事によっては刃傷沙汰を起こし、何の関係もない街の人々が抗争に巻き込まれたりして怪我を負い、街の警備団では手に負えないと言うことで、青い鳥騎士団の総団長である父が、騎士団を率いて事の収拾に出向く始末。

 両家の抗争の中に、ロミオは含まれていない。彼はあれから姿を見せなくなった。それなのに、どうして争い事が起きるのかと言えば、キャピュレット家の「狂犬」の存在が大きかった。


 キャピュレット家の「狂犬」とは、わたしの許婚であるティボルトのことで、今や彼はキャピュレット家の、若者達を率いるボス的な存在となっているらしい。


「なあ、どうしてだ? ジオン。ああも、両家が仲違いする理由はなんだ?」

「さあな。私も良くは知らない。両家は私の爺さん達よりも前の世代から争っていたと聞く。若い者達は年寄り連中から刷り込み式に、相手の家を憎しと、育てられるから異様ではある」


 ロマーノ小父さまは、キャピュレット伯爵家の元嫡男だった父に意見を仰ぐ。ジオンとは父の名前だ。父はキャピュレット家の者としてはかなり異端だった。若い頃から剣術にしか興味がなく、モンタギュー家を悪く言う父親の教えを半分聞き流し、己の鍛錬の為に年月を費やした。

 そして自分の腕を試したいと、後継の座を弟に譲り、許婚との婚約解消を望んで家を飛び出したそうだ。その時に父親からは勘当されていたが、今では実弟が当主となり、勘当は解かれている。

 今では大公さまお抱え騎士団の総団長となり、叙爵を受けて男爵となっていた。


 でも父はキャピュレット家にも、モンタギュー家にもどちらにも肩入れしないできた。「剣聖」としての立場から中立の立場を取り続けてきた。剣聖を名乗れるのはごく一部の実力を認められた者だけだ。

実家のキャピュレット家にも一目置かれているし、モンタギュー家の者からも、割と好意的に受け入れられてもいる。その為、両家の諍いとなると、大公さまが愚痴りやすいのだろうけど、解決には至らないようだ。


「どうしたら良いんだろうな?」


 深いため息を漏らすローマン小父さまの額の皺は、どんどん深くなる。わたしはお節介ながら、思いついたことを提案してみた。


「ローマン小父さま。今年のヴァローナ祭は例年通り行われますよね?」

「ああ。そろそろだな」

「もし良かったら、そのヴァローナ前日祭で選ばれる花娘をキャピュレット伯爵家のジュリエットに、花騎士をモンタギュー伯爵家のロミオにやって頂いたら如何ですか?」

「何だって?」

「それを切っ掛けに、二人が仲良くなってくれれば、両家も歩み寄りそうな気がしませんか?」


 わたしの提案に、ローマン小父さまはよほど驚いたらしく、摘まんでいた唐揚げを喉に詰まらせ、父は唖然とし、ベルサザは持っていたグラスの水を吹いた。


「やだ。ベル。汚い」

「悪い、悪い。ロザリーが変な事言うから……」


 ベルサザの吹いた水が、腕にかかって文句を言うと、手拭きを手渡してきた。わたしは花祭りをきっかけに両家の嫡男、嫡女が恋に落ち、結びついてくれたなら万々歳ではないかと思ったのに、皆の反応は思わしくなかった。


「難しいと思うぞ。そう上手く行くか?」

「駄目かしら? 試してみるだけでも……」


 父の怪訝そうな声に、取りあえずやってみるだけでもと言えば、ロマーノ小父さまは顎に手をあてた。

7年前、ジュリエットに絶交を言い渡されたわたしは、彼女とは疎遠となっていた。でも、前世を知る身としては、この激化するモンタギュー家と、キャピュレット家の問題を素知らぬ振りは出来ないような気がしたのだ。


 今までロミオとジュリエットが出会う機会はなかったように思う。でも現在、ジュリエットは14歳。ロミオは19歳になる。成人が14歳とされるこの世界で、二人を引き合わせても何も問題はないだろう。

 わたしには焦燥のようなものがあった。二人を早く出会わせないといけないような気がしてならなかった。


「分かった。やってみよう」

「本当? 小父さま」


 ロマーノ小父さまは頷いた。


「ヴァローナ祭の間は、両家は休戦状態になって静かになることだし、どうせなら祭りに参加してもらおうじゃないか」


 ヴァローナ祭は三日三晩続き、広場に沢山の屋台が出る。それを目的に皆が、練り歩くのが定番となっている。夜には松明が焚かれて花騎士や、花娘が中心となって若者達がダンスを踊ったりする。

わたしはそれにもう一つ、加えてあることを両家にしてもらってはどうかと思い提案することにした。


「ロマーノ小父さま。あともう一つお勧めしたいことがあるの」

「なんだい? ロザリー?」


 唐揚げのお皿をもう一つ余分に、小父さまの前に出したせいなのか、快く耳を貸してくれるようだ。


「それは──」


 その晩は遅くまで、モンタギュー伯爵家と、キャピュレット伯爵家を仲良くさせよう作戦が練られた。



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