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4話・誤解


「きゃあっ。それは一体、どうしたの?」

「ジュリエット?」

「ティーボも、メテオもひどいけがじゃない」


 こちらに駆けてくるジュリエット。その彼女の後を追ってきた年若い侍女アニーが、キッと睨んできた。


「ロザラインさま。これはあなたが?」

「違うわ。わたしは何もしていない」

「それなら何故、ティボルトさまとメテオが怪我をしているのですか?」


 アニーはメテオの姉で、当主夫人の推薦によりジュリエットの専属侍女となっていた。キャピュレット家のご令嬢である、ジュリエットの専属侍女となったことに誇りを持つ彼女は、いくら従姉とは言え、平民育ちのわたしが、ジュリエットに近づくことを、あまり良く思っていなかったようだ。

 最近、ジュリエットを訊ねると、「お嬢さまはお勉強の時間ですので」「淑女教育を受けておられる時間です」「ダンスレッスン中ですので」と、けんもほろろに追い払われていた。それをいつも門前で繰り返していたので、門番には気の毒そうな目線を向けられていた。


「姉さん、違う。これはロザリーがしたんじゃない。あいつらが……」

「メテオ。あなたは黙っていなさい。私はロザラインさまに聞いているのよ」


 そうは言っても、彼女にわたしの意見を聞く気が無いことは態度で分かる。彼女は初対面の時から、私に対する悪意のようなものを隠さなかった。


「ロザリーひどい。ティーボをそうやっていじめていたの?」


 ジュリエットは、侍女の言葉を信じたようで、疑う素振りを見せた。状況的にわたしは疑われやすい状態にあった。手にはY型の棒を持っているし、彼らには叩かれたような痕もある。現状だけ見れば暴力娘にしか見えない。わたしは従妹の誤解を解きたくて、ティボルトを見やった。


「わたしはやってないわ。ねぇ、ティーボ、あなたからも説明してよ」


 ティボルトの方から説明してもらったら、二人も納得するだろうと思ったのに、彼は気まずそうにわたしから目を反らしただけだった。わたしは信用していた相手に見放されたような気がした。


「どうして何も言ってくれないの? ティーボ」


 そのわたし達の態度を見て、アニーがせせら笑った。


「なんてことでしょう。いくら名門キャピュレット伯爵家の血を引くとは言え、野良猫の血が混じったご令嬢は行動が野蛮ですこと」


 侍女の言葉には棘があった。「野良猫の血」と言われて明らかに侮蔑していると分かる。それを聞いてジュリエットも言った。


「ロザリーは、私達が見てないところでティーボを虐めてきたのね? いくらティーボとの婚約が気に喰わないからと言って暴力を振るうなんて最低! あなたとは絶交よ。もう顔もみたくないわ」

「ジュリエット、わたしは何もしてないわ」


 ジュリエットは、わたしを疑ってかかっていた。


「ティーボも言っていたわ。自分との婚約をロザリーは気に喰わないようで、いつもどうして自分が許婚なのかと顔を見る為にため息を吐かれていたって」


 その言葉を聞いて、わたしはティボルトが誤解していると気がついた。あれは前世の舞台のヒロインのセリフの一部で、それをもじって彼をからかう時に使った言葉だ。ティボルトを嫌ってなんかいない。彼も気にした様子はなくケロッとしていたから、冗談だと分かっていると思っていた。まさかその言葉に、傷ついていたなんて知らなかった。


「あれは違うわ、からかっていただけなの。でも、ティボルトにとっては嫌なことだったのね? ごめんなさい」

「何が違うのよ。からかう? ロザリー、あなたは何様のつもりなの? ティーボはね、好きでもないあなたが頭に怪我を負ったことに責任を感じて、許婚となることを承諾したのよ。別にあなたのことを、好きでもなんでもないから勘違いしないで」


 ジュリエットの言葉に、わたしは衝撃を受けた。わたし達の婚約は、キャピュレット家当主が決めたことだ。それでも彼と仲良くやって来られていたと思っていたのに、わたしの勘違いだったらしい。そこまでティボルトに嫌われていたと知らなかった。そしてジュリエットにも、冷たい目を向けられて何も言えなくなった。


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