25話・お父さま、私達の仲を認めて
「ずいぶんと自意識過剰ね? ティボルト。安心なさい、わたしもあなたのこと何とも思ってないから。でも、驚いたわ。田舎に帰って地元の騎士団に所属して、修行させられているはずのあなたが、こんなところにいるなんてね。叔父さまも報われないわね」
ティボルトの言い分に腹が立ったので言えば、彼は黙った。彼はいつもそうだ。分が悪くなると黙ってしまう。
「あなたとわたしとの婚約破棄に、叔父さまはいくら支払ったと思うの? あなたは当主である叔父の顔に泥を塗ったのよ。ジュリエットと二人きりで婚礼を挙げてどうするつもりだったの? 国外に逃げ出す予定だった? そんなことしたら、あなたをキャピュレット家から追放しろと言った大叔父さま達に、反省させて二度とこのようなことはさせないと庇った意味が無いわね」
「義叔父上が? どうして?」
「あなたは叔母さまの可愛がっている甥だし、それ以外にも何か意味があるんでしょう? ベル」
二人を結婚させてはならないと、ロレンス修道僧に言い、ガンとして意見を曲げないベルサザ。ベルサザとは一緒に暮らしてきたから分かる。彼は意地悪で誰かを貶めるような発言はしない。反対するのは、そこに何か理由があるからだとしか思えなかった。
「それは……」
「兄さん、やらかしているね。だから言ったこっちゃない」
「ロミオ」
「この件は黙ってぼくに任せておけば良かったのに」
言葉に詰まったベルサザを助けるかのように、背後から声がかかった。先ほど会ったロミオだ。ジュリエットや、ティボルトは彼の登場に唖然としていた。
「やあ、ジュリエット。ヴァローナ祭以来だね。どうしてここにいるのかな? 先ほどキャピュレットご当主夫妻にお会いしたからこちらまでお連れしたよ」
「ジュリエットッ」
「ティボルト、おまえってやつは……!」
叔母と叔父が使用人達を数名引き連れてやって来た。わたし達と別れた後、ロミオは姿の見えなくなったジュリエットを捜している叔父達と行きあったらしかった。
「どうしてここが分かったの?」
「ぼくの手の者が、ティボルト卿が修道院に向かうのを目撃していて、その後にジュリエット嬢が入って行くのを見たと報告に来たから、それをご当主夫妻に伝えたところだったんだ」
それにしてもタイミングが良すぎると思っていたら、ロミオはキャピュレット家に手の者を忍ばせていたらしい。道理でわたしや父の事、キャピュレット家の事情を知っているわけだ。
「わたし、ティーボとは絶対、別れないからっ」
「お黙りなさい。ジュリエット。ティボルト、あなたがジュリエットを唆したの?」
ティボルトに抱きつくジュリエットはキッと、当主夫人である母親を睨み付けた。それに叔母は動揺を見せなかったものの、ティボルトに問う声には弱々しいものを感じさせた。
「奥さまお許し下さい。私達は愛し合っているのです」
「黙れ。ティボルトを縛り上げろ」
叔父は連れてきた使用人達に、ティボルトが逃げ出さないように縛り付けさせた。その彼にジュリエットは取りすがった。
「お父さま。ティーボに酷いことをしないで。わたしが悪いの。わたしが彼を唆したの」
「旦那さま、申し訳ありません。心は偽れませんでした」
「お願い。お父さま、私達の仲を認めて」
叔父は婚約を持ちかけていたロミオもその場にいるので、さすがにジュリエットに流されるような真似はしなかった。




