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12話・今更です


「あなたがティボルトを望むなら反対はしないわ。でも、筋を通しなさいね。一応、ティボルトはわたしの形ばかりとは言え、許婚なのだから、まずはわたしと婚約解消について話し合った上で、叔父さまにそれを報告して無事に婚約の解消手続きが成されてから、改めて二人の仲を打ち明けるべきだったと思うわ。そうじゃないと、ティボルトは許婚がありながら不貞したことになるし、ジュリエットだって未婚の身で、許婚のいる相手に言い寄ったことになるわ。屋敷の中では性悪女のわたしが、二人の仲を引き裂いたとして同情されていても、世間から見るあなた達は違うわ。あなたはふしだらな娘と不評を買うだろうし、批難されるでしょうね。そうなったら叔父さまは、あなたをそのままにしておくかしら? よく考えて」


「違うわ。違うのよ、信じて、ロザリーお従姉さま。ティーボとは……、ティボルトとはそんな仲ではないの」

「今更、誤魔化さなくとも良いわよ。今までわたしとティボルトは何の交流もなかったし、ティボルトだって嫌っている相手との婚約は望んでなかったのでしょう?」


「俺はおまえのことを嫌ってなんてない」


「そう? あの日、ジュリエットは言ったわよね? ティボルトはわたしのことを別に好きでも何でもないって。忘れているの? わたしは昨日の事のように覚えているわよ。ティボルトがロミオと抗争になって、そこに助太刀に入ってわたしが相手をやり込めた日のことよ。そこへジュリエットが通り掛かかってわたしに、自分達が見てないところでは、ティボルトに暴力を振るっていたのかと言って責めたわ。ジュリエット達が誤解しているのに、あなたは何も説明してくれなかった。わざとジュリエット達の誤解を解かなかったのでしょう? そうでもしないと、酷い許婚がいる自分は可哀相だと、ジュリエットの気を惹けないものね」


「それは違う。誤解だ」


「あの日もわたしは誤解だと言ったけど、メテオ以外、誰も信じてくれなかったじゃない。特にあなたは事情を知るくせに隠蔽した。そんな人と婚約をしていたのかと呆れたわ」

「済まない。あの時は下手にきみを庇うよりは……と、思って」

「何か理由があったとしても、許婚に対する態度としては真摯なものじゃなかった。キャピュレット家の狂犬として名が知られていい気になっているようだけど、ただの卑怯者よね」

「お従姉さま。酷いわ。そこまで言わなくともいいじゃない。確かにお従姉さまの言うことを信じなかったわたし達に非はあるけど、子供の頃の話をいつまで気にしているの?」


 ティボルトは、わたしに二人の関係がバレているのに否定しようとしていた。往生際の悪さを感じる。それに反省の色もなく、彼をかばい立てするように口出すジュリエットに腹が立ってきた。


「確かにそうね。子供の頃なら判断に間違いがあっても仕方ないでしょうね。でも、今のあなた達は違う。先ほどよく考えてと言ったけど、政略結婚の意味は分かっているでしょう? キャピュレット家の当主が決めたことをあなた達は破ったことになるわ。契約違反よ。その結果、どうなると思う? お屋敷の侍女達はあなた達の味方でも、雇用主から怒りを買うことを望まないと思うわ」

「お従姉さま。お願い、お父さまには黙っていて。今までの事は誤解なのよ。ティーボとは……、ティボルトとは兄妹のように仲が良いだけ。ごめんなさい。誤解を招くような態度を取ったりして。もうしないから許して。これからはティボルトのプライベートには立ち入らないわ。彼にはお従姉さまと会うようにさせるから。だから機嫌を直して」


 ジュリエットは顔色を変えた。さすがに気がついたのだろう。もしも、わたしからティボルトとの婚約解消を叔父に申し立てれば、その理由を問われることを。そうなったら父親に怒られ、下手したらティボルトと引き離されるのは確実だ。そして未婚前で異性と噂が立ったご令嬢の末路は悲惨だ。良縁に恵まれず、最悪の場合は辺境にある修道院に送られるが通常だった。


 今後の彼女がどうなるかは、わたしの行動一つにかかっていると気がついたらしいジュリエットは、先ほどとは打って変わった態度で懇願してきた。


「お願いよ。何でもお従姉さまの言うことを聞くから」

「そうは言われてもねぇ。今更、他の女性の手垢がついた許婚なんていらないしね」

「お従姉さま」


 ジュリエットは涙目になっていた。あの頃のジュリエットだったなら思わず手を差し伸べていただろうけど、7年も経ってジュリエットが別人のように変わってしまったように、わたしも彼女への思いが変化していた。

「ごめんなさい。もう遅すぎたわ。でも、花祭りの間は何もしないでいてあげる。花娘がゴシップにまみれたら、せっかくあなたを花娘として選んでくれた皆さんが可哀相だものね」


 それだけ言うとわたしは踵を返した。もう彼女らに付き合っていられない。と、いうやけっぱちな気持ちになっていた。歩き出すとベルザサと、レノアやハンスが着いてきた。


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