4 今とても幸せです
眼精疲労をどうにかしたい
シルはウィンちゃんを持ち上げたままの状態で運び、部屋の外へそっと置くと扉を閉めた。
いつもならウィンちゃんも負けじと入ってくるところだが、今は本当に時間がないことを理解していたようで、戻ってくることはなかった。
そのままシルは部屋の中央へと向かっていった。ぼくとワインドもその後ろについて歩いた。
広間の中心には5段ほどの低めの階段があり、そこを上がるとグリーンを基調とした大きめの上品なイスが置かれてある。
ここに座れるのはこの国の王、シルリヤただ1人だ。
シルの隣にぼくが立ち、さらに数歩後ろにワインドが有事の際にすぐ動けるように待機した。
少しして先ほど玄関口で会話をかわしたチョークが、ラップに連れられやって来た。
「さあ、始めよう」
シルの落ち着いた一言から話し合いが開始された。
結論から言うとぼくは神の伴侶でいることを受け入れた。
4年前のあの時、ぼくとシルは2人でたくさん答え合わせをした。
驚いたのは、ぼくと初めて出会ったとき、シルは科学が進歩しているあの世界に相当衝撃を受けたらしいということだ。
「あれほど便利な世界から来て、お前は本当に幸せなのか?」
シルはずっとそう思い、悩み続けていた。
ただ前の人生のぼくは無気力で、シルの言う便利な世界だったのかもしれないけど、何をするにも『やらないといけないこと』という考えしか持っていなかったんだと思う。
その後、ぼくが風の国で生を授かってから成長するまで、シルはずっとぼくを観察していたそうだ。
辛そうな顔を見せたらすぐに引き取ろうと思っていたらしい。
それと同時に前の世界のぼくの命を持続させることにした。ぼくの体に入り活動することで、ぼくの体は生き続けたのだ。
そして、いつでもぼくが戻れるように資金調達や環境作りもしていたという。
大学にはパソコンやテレビなどモノを造る仕組みを学びに行っていたらしい。
ただし風の国で調達、代替できそうな材料を考えて教授にも相談していたみたいだが、どうにもその資源状況・技術者の不足具合では難しいのではないかという結論にいたり、風の神殿でのぼくとの話し合いをきっかけに、静かにあちらの世界との道は閉じることに決めた。
また、雷の国で見た怪しい商談も、電気の価値を知り研究を続けるため貿易を持ちかけたらしい。
帰りの馬車では雷栗の輸入しか聞いていなかったが、メインは電気の確保だったみたいだ。
お陰で夜は暗かった風の国も、今は明るく夜道も怖くない。
あれだけ不安になってリヒトにも忠告を受けたシルの怪しい行動は、蓋を開けてみると全部ぼくのためだった……ぼくは何度もシルを疑ってしまった自分を殴りたくなった。
自分勝手だしクールで何を考えているのかわからないことが多いシルだが、出会った頃からずっと優しい神様だったんだ。
むしろなんでたまたま少し会話をしただけのぼくのことをここまで心配してくれるようになったのかはよくわからない。そのことをシルに聞いてもはぐらかされるのだ。
「ただ連れ添うならお前がいい。そう思っただけだ」
だそうだ。
「神の伴侶など大層な名称がついているが、ただ友としていてくれたらいいし、嫌になればすぐに言ってくれたらいい」
そこには初めて出会った頃の自信満々な姿はなく、はじめての友だちという関係を怖がっているようにも見えた。
それはぼくにも経験があることで、そんなシルリヤを見放す気は起きなかった。
ぼくが契約の継続を望んだあと、シルはぼくの両親に挨拶に行った。
両親は大層驚いていたが、元々この国の人たちはシルが大好きなのだ。
息子をよろしくお願いしますと言って、ぼくのことを抱きしめてくれた。
両親の他、ぼくがもう歳をとらないことを、幼馴染のウィー、そして地元の中の良い友人たちにも話した。
話す前に雷の国で起きた誘拐事件の犯人のことを思い出したが、ぼくは友人たちを信じようと思った。
結果、皆ぼくを受け入れてくれて、ぼくの二十歳の誕生日パーティーまで開いてくれた。
「あたしが生きてる限りあんたの年齢をいつでも答えてやるわ」
そうウィーに言われた日はおかしくて涙が止まらなかった。
チョークが退室したあと、隣にいたシルがぼくの服の袖を軽く引っ張ってきた。
なにやら耳打ちしたいことがあるらしく、顔を近づけると手を口の横に添えて口元も見えないようにした。
「……1日遅れとなって悔しいが、誕生日おめでとう」
ぼくは16歳のまま成長が止まることになったが、こうして皆におめでとうと祝われる日は残っている。
これからのことは正直わからない。
でもわからないのが人生だし、それならぼくは今を信じて生きていきたい。そんな楽観的な考えでもいいんじゃないかって思うんだ。
とっても楽しい人生をありがとう。
お読みいただきありがとうございます。
次回がとうとう最終話です!




