1 今日はぼくの誕生日
お誕生日おめでとう。
目が覚めた。
麦畑に囲まれたこの家は、年中麦の香りが家の中にも漂っている。
深呼吸をしてその匂いを感じると、ぼくはとても穏やかな気持ちになれた。
良い目覚めのまま、ベッドから出て隣の部屋へ移動する。
隣の部屋ではすでに起きていた両親がテーブルを囲い朝食をとっていた。
ぼくに気がついた2人が、食事の手を止めて声をかけてきた。
「おはよう。お誕生日おめでとう」
「おはよう……お前ももう20歳になるのか、おめでとう」
祝福の言葉をもらいながら、それぞれと軽く抱きあった。
ぼくは今日20歳になった。
「今日はウィートネちゃん達がお祝いしてくれるんだってね。良い友達をもったねぇ……夜は母さん、お手製のケーキを用意しておくからね」
「なに、こういう日は畑のことは気にせず、楽しんできなさい」
柔らかいパンをかじりながら、今日の予定の話になった。
今日は幼なじみのウィーを含む友人数人と集まって、この村の隣にある街へ遊びに行くことになっていた。
普段家にいる時は父の畑仕事を手伝ったりしているが、誕生日の今日は気にしないでくれと、前々から言われていた。
「気をつけて行ってくるんだよ」
朝食を食べ終わり、両親に見送られぼくは待ち合わせの場所へ向かった。
「おーい! おっはよー!」
ウィーの家が近くなると、すでに準備ができていたウィーが玄関からこちらに手を振ってきた。
「お誕生日おめでとう! さ、行こうか!」
ウィーと並んで歩く。
ウィーは学校を卒業してから隣街のカフェで働くようになった。
学生の頃より伸びた髪は、頭の上の方で団子のようにしてまとめていた。
今日はウィーの働くカフェを貸切ってお祝いをしてくれるとのことなのだ。
「うちのカフェはじめて来るでしょ? パンケーキがね、とっても柔らかくて美味しいの。絶対気にいると思うよ!」
ウィーの説明に、少し前に朝食を食べたばかりなのに、もうお腹がすいてきた気がした。
待ち合わせ場所につくと、全員が揃うまでそこでたくさん話をした。
学校を卒業してから、中々会えていなかったので、久しぶりにみんなに会えて心がぽかぽかした。
みんなが合流すると、徒歩で隣街へ移動する。隣街はここから30分ほど先にある。
風を渡っても良かったが、10人くらいが集まると、様々な話題が飛び交うので、のんびり歩くことにしたのだ。
「じゃーん! ここでーす!」
隣街についてからはウィーの案内でカフェへと向かった。
道中驚いたのはウィーが街でちょっとした有名人だということだ。
「ウィートネちゃん今日もかわいいね!」
「あ、ウィーちゃん! こんにちは」
「またカフェ行くねー」
老若男女問わず道行く人がウィーに声をかけてきた。
「実はカフェでデリバリーサービスしてるんだけどさ、それで知り合いが増えたの」
どうやらデリバリーはウィーが担当しているらしく、風に舞う美人店員と人気が高いらしい。
さすがウィー。
ウィーの働くカフェは、木のあたたかみのある落ち着いた雰囲気の場所だった。
オーナーはなんと王宮でシェフとして働いていた経験があるらしい穏やかそうな老年の男性だった。
シェフ引退後に、奥さんと一緒に長年夢だったカフェを始めたらしい。
「よく来てくれたね。今日はウィーちゃんのお友達の誕生日会ということで、たくさんご馳走を作るからね」
正方形のテーブル席に2人ずつ向かい合って腰掛ける。
そこに奥さんとウィーが出来上がった料理を置いてくれる。
途中からぼく達も一緒に、オーナーが作る良い匂いの料理達を運んでいった。
目の前にはステーキにポテトにサラダ。それにウィーおすすめのパンケーキなどが机を埋め尽くした。
飲み物はお酒を飲む者もいたが、ぼくはすぐに酔ってしまうためオレンジジュースをもらった。
「じゃあ、お誕生日おめでとう! いただきまーす!」
わいわい、賑やかな食事が始まった。
座って食べているとかわるがわる誰かがやって来て、話をしたりプレゼントをもらったりもした。
ウィーにすすめられてパンケーキを一口頬張る。驚くことに歯が生地の中に沈みこむくらい柔らかく、その美味しさに思わずおかわりしていた。
楽しかった時間はあっという間にお開きになり、お礼を言いながら1人、また1人と別れていった。
ウィーと2人でまた家までの道を進んだ。
「明日の朝帰るのよね? あーあ、あんたがいないと少し退屈よ」
ウィーが唇を突き出して、拗ねるように言う。
街であれだけ人気者のウィーにそう言われると、冗談でも嬉しかった。
「あたしもあんたも皆も、もう働いてお酒が飲める歳になったなんて驚きよね。じゃ、元気でね。また会いましょ」
ウィーが手を振りながら家の中へと入っていった。彼女は相変わらず世話焼きで優しい大好きな幼なじみだった。
家に帰ると今度は両親と誕生日を祝うご馳走を食べた。
今日だけでどれほど体重が増えたことだろう。お腹ははちきれそうで、今は風に乗ることもできないと思った。
それでも自分の誕生日を大好きな人達に祝ってもらえる。
ぼくはとても幸せだ。
お読みいただきありがとうございます。




