10 隊長として
兄貴ぃ……
パレードを2人で並んで眺めている。
こんな何もしない時間を過ごすのもたまには良いと思う。
「そろそろ閉会だな……行くか」
はて、どこに? と思ったが、シルが部屋を出ていこうとするので、慌ててぼくも背中を追いかけた。
同じ階のとある部屋の前で立ち止まったシルが、ぼくの顔を見て告げた。
「……ワインドが、今日のお前の事件に責任を感じて辞職すると言っている」
ええ?!
動揺するぼくに、シルは静かに話を続けた。
「確かに、護衛対象であるお前から目を離し、誘拐されてしまったことは事実だ。今回は無事だったから良かったものの、一度失敗したやつを信用することは難しい。俺は解雇で問題ないと思っている」
シルの話は正論なのかもしれない。
でも、ワインドは今までシルとぼくの傍にいてくれて、護衛もそうだけど、よく気にかけてくれるところとか、明るい兄貴的な存在のワインドがいなくなってしまうなんて、そんなの嫌だ!
わがままなのかもしれないけど、ぼくはワインドにこれからも一緒にいてほしい。
「まぁ、お前もそう思うよな。おい、ワインド。開けて出てこい」
少しだけシルの目尻がやわらいで、ワインドの部屋の扉を叩いた。
ガチャり……控えめに開けられたドアを掴んで、シルは勢い良く扉を開けて中に押し入った。
「ちょ、シルリヤ様?!」
内側にいたワインドが慌てて後ろへ身を引いた。
ぼくもシルの後に続いて部屋の中へ入った。
「少し話をしよう。紅茶で良いぞ」
ソファにどかっと腰をおろしたシルは、すぐには出ていってくれなさそうな雰囲気があった。
諦めたワインドは、ポットにお湯を入れて、紅茶の用意を始めた。
ぼくも、シルの隣に座って部屋の中を見回した。
ソファはぼくたちの部屋と同じものだったが、一番気になったことは隅に置かれたシンプルな白いシングルベッドについてだった。
あるんじゃん! シンプルなやつ!
なんでぼくたちの部屋をあえてあんな、ピンクの……なんか雰囲気のあるベッドにしたんだよ! これ2台で良かったよ!
「お待たせしました……」
心の中でヒステリーに叫んでいる間に、ワインドが紅茶を机に2つ置いてくれて、自身は机を挟んだ向こう側に背筋を伸ばして立っていた。
「あそこに折りたたみ椅子があるな。あれを持ってきてお前も座れ」
シルに指示を出されたとおり、椅子を持ってきて「失礼します」と一言添えて座った。
「ワインド、今回のことだが、お前に確かに落ち度はある。だが、こいつはなにも気にしておらず、むしろ護衛隊長のままでいてほしいと言っている」
「……そう言ってくださるのはありがたいですが、オレは今回自分に激しく失望しました。なんで1人にさせてしまったんだと」
ワインドは苦しそうに、申し訳なさそうにぼくを見つめた。
あの時、元気のなかったぼくを励まそうと、優しい気持ちでぼくの好物を買いにいってくれたのに……ワインドに甘えて、お店まで着いていかなかったことを後悔する。
「……俺は、この数百年間、何人もの人間に護衛を任せてきたので、今さら人が変わろうがそう気にならない。だが、ワインド、お前は今までの隊長の中で1番、アホだ」
シ、シルリヤさん~?
急なアホ呼ばわりに、ワインドが固まってるよぉ。
「ただ淡々と護衛をこなせばいいものの、お前はこれが美味いだの、今日は良い天気だから散歩などいかがだの……こんなお節介なやつは初めてだと思った」
段々肩を落とすワインドの姿を見て、シルがふっ、と笑みをこぼした。すぐに真顔に戻ったからワインドは気がついていないけど、ぼくは見たからな!
「お前にもプライドがあるだろうが、こんなおもしろ護衛隊長は中々出会えん。なので、俺としては処罰は次のボーナス全額カットとして、これからも隊長は続けてもらいたいのだが?」
ワインドは顔に力を入れて涙を堪えるようにして顔を上げた。
「ボーナス2回分全額カットで! どうか、もう一度貴方と、貴方の大切な方々を守らせてください!」
椅子から立ち上がり腰が90度以上曲がる勢いで頭を下げた。
自らさらに厳しい条件を出してくるところがワインドらしい。
こうして、ワインドは隊長を辞めずに済むことになった。
祭も終わったので、ぼく達は明日雷の国を発つことになっている。
楽しいことも含めて色々なことがあったが、もう流石に事件は起きないだろう。
だけど、そんなぼくのお気楽な考えに対してフラグを回収するかのように、すぐに大変なことが起きるのだった。
それはワインドの部屋を後にして、シルと部屋に戻ってすぐのことだった。
「おい、一緒に風呂に入るぞ」
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