9 理由
理由は人それぞれ。そんなことでと思われても自分にとってはどうしても許せないことってありますよね。でも犯罪ダメ絶対。
犯人たちの顔が青ざめる。
シルの後ろから兵隊たちもぞろぞろと入ってきて、さらにはブリッツまでもがやって来た。
「馬鹿な。なぜここが……」
「私は雷の国の王にして神であるぞ。何を不思議に思うのだ」
普段のブリッツの柔和な雰囲気とはまるで違い、ぴりぴりとした重圧感で周りに緊張が走った。
「ぼくが見つけて案内したからじゃん……ヒゲオヤジが」
腹の上からリヒトの舌打ちが聞こえてくる。
薄々気がついていたが、リヒトはブリッツに関して厳しい。でも本気で言っているわけでもなさそうだ。あれも1つのコミュニケーションなのかもな。
「さて、そろそろシルリアしゃんに怒られそうだから自由にしてあげる!」
そう言ってリヒトがやっとぼくの上から撤退した。ついでに足と手を縛っていたロープが緩むのを感じてぼくも立ち上がった。
ただしシルたちのいる入り口へ行くには犯人の横を通り抜けなければいけないため、その場から動くことができない。
とりあえず口にあてられていた布を自力で外した。
「な、なぜ人質のロープがはずれているんだ⁈」
犯人の中の女がぼくが自由になっていることに気がつき驚愕している。
「この……化け物たちめ!」
憎悪にまみれた表情で老人がブリッツを睨みつけた。
「ほお、化け物とわかってなお喧嘩を売るんだな」
ブリッツは化け物と言われても気にしていないようだった。
そのとき、風がぼくを包み込んだ。
ぼくは全身が宙に浮く感覚に、抵抗せず身を任せた。
そのまま天井スレスレに飛んでシルに優しく抱きとめられた。
「……無事でよかった」
シルは表情からは感情を読み取ることが難しいタイプだが、今は瞳が揺れとても心配してくれていたことが伝わってきた。
その顔にぼくもなんだか安心して、今だけは甘えてシルの腕の中で結末を見守ろうと思った。
「さて、人質も無事に戻ってきたし、このままお前たちを捕まえてから尋問すればいいのだが……なぜこんなことをしたのか、一体なにを要求しようとしたのか、今聞いても良いだろうか」
ブリッツは、尋問して部下の口から聞くより、犯人たちから直接話を聞きたいと言った。
その言葉に気弱な男と女が顔を見合わせた。どこか動揺しているようだった。
まず先に反応したのは先ほどから憎しみを纏った老人だった。
「わしの友人はお前の妃であるルーンの父親であった。ある日お前がルーンを拐い、独りになってしまったわしの友人は死に際にそのことを嘆いて死んでいった。願いはただ1つ。ルーンを人間へと戻してほしい。そのためにわしらは集まったのだ」
そこからはぼくたちが口を挟むまもなく、犯人たちが口々に要求を吐き出していった。
「オレはルーンを愛している! 不老の呪いから救い出し共に人生を歩みたい!」
まずぼくを拐ってきた若い男がブリッツに嫉妬の目を向けながら。
「あたしは選ばれた人間だけが美しい姿のまま生き続けることが耐えられない。あたしが先にあなたと出会えていたらあたしが妃になっていたはずなのに」
次に気の強い女が情熱的な眼差しでブリッツを見つめた。
「ぼぼぼぼくはなにもできないぼくを作った神様が憎くて……いやがらせのつもりだったんですぅ。お許しくださぁぁい」
気の弱い痩細った男が地面に頭を擦り付けながら祈るように叫んだ。
犯人たちの要求はルーンを人間へ戻すこと。理由は4人それぞれ。
ぼくはこの場にルーンがいなくてよかったと心底思った。
「そうか。なぜそれを……こんな他国を巻き込んだ犯罪で訴えようとするのだ」
ブリッツはそれはそれは苦しそうに吐き出した。
「ならあんたは、直接訴えたら聞き入れてくれたとでもいうのか?」
老人がしわを深くして責めるように問いかけた。
「聞き入れるわけがない。ぼくはルーンを愛しているし、ありがたいことにルーンも同じ気持ちでいてくれる。それは別に悪ではないのだから」
「父親から娘を奪うことが悪ではないのか?」
「その父親はルーンを愛していなかった。毎日暴力をふるい、酒代を稼ぐために働かせ、最後は金のために実の娘を売り払ったんだ。それでも強く、気高く生きようとした彼女に、ぼくは心底惚れたのだ」
悲しそうに眉を下げて、ブリッツは老人に同情しているようだった。
「信じん! わしは信じないぞ!」
目を吊り上げて最後まで老人はブリッツに暴言を吐き続けた。
他の3人は兵士に拘束されるとどこか諦めた顔で、静かに連行されていく。
ぼく達は馬車に乗ってお城へと戻った。すぐにルーンが駆け寄ってきていた。
「本当に良かったです……」
その目は涙ぐんでいて、慌てて元気アピールにぴょんぴょんその場でジャンプしてみせる。
ブリッツがルーンの肩を抱いて落ち着かせたあと、彼が一歩前に出た。
「この度のことは本当に申し訳なかった」
「全くだ。今日はこのまま休ませてもらう。ブリッツ、明日帰る前に話をしよう。お前は早くパレードへ行け。国民が待っているぞ」
急かすように話を終わらせるシルに、ブリッツとルーンが顔を見合わせた。
そしてお礼を述べてから早足にお城の外へと向かっていった。
すっかり暗くなった空に、雷鳴が轟、街全体が煌々と輝いていた。
ぼくたちは部屋に戻ってバルコニーからその様子を眺めていた。
明かりに照らせるシルは一段と神々しい。
聞きたいことがいろいろあったが、いつもならぼくの視線に気がついて声をかけてくれるシルが、今はずっと外のパレードに集中しているので、ぼくもまたパレードへと視線を戻した。
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