1 夢の話
おはようございます。
目が覚めると真横にはシルがいた。
「よく眠っていたな」
どうやらシルの肩を借りて眠っていたらしいぼくは慌てて頭を上げる。
今ぼく達は馬車に乗って移動中だった。
先日突然やって来た雷の国のリヒトに祭への招待を受けたからだ。
この馬車の中にはぼく達2人だけが乗っている。ワインドも護衛として前を走る馬車に乗っているはずだ。
ウィンちゃんは残念ながらまたぐずってしまうという理由で今回は留守番をしている。そのお守りをラップが引き受けている。
「まだ時間はかかるしもう少し寝ていても良いぞ?」
そうシルは気遣ってくれたが、目が覚める前に見た夢が怖くて今はもう眠れる気がしなかった。
シルの横顔をじっと見つめ考える。
そうだ。シルに話してみよう。シルがはっきりと夢だと言ってくれればぼくも少しは安心できるだろう。
「なるほど。2回ともオレが目覚めるきっかけを作ったんだな」
夢の話を細かく説明するとシルは顎に人差し指をあてがい考える素振りを見せた。
「お前、そんなにはっきり記憶があるんだな」
?
確かに夢なんて起きたあとは断片的にしか思い出さないことが多い。
この夢以外ではっきり説明できるものはすぐには思いつかない。
「まぁ、そんな短い時間のことより、こっちの世界で動いている時間の方が長いだろう? あまり気にしないことだな」
なんだ?
なんではっきり夢だと言ってくれないんだ?
こんなのますます気にしちゃうじゃないか!
「どうした? 腹でも減ったか?」
ぼくが突然不機嫌な顔を見せたので、シルは腹が減ったのだとトンチンカンな解釈をして、馬車の馬たちをコントロールしている兵士へ止まるように指示を出した。
なんで国民の要望には敏感なのにぼくのことに関しては鈍感なんだよ!
馬車の速度が落ちていき完全に止まると、シルは扉を開けてさっと地面へと飛び降りた。
着地をすると振り返ってぼくに手を差し出す。
「ほら、ここら辺の店で甘いものでも買おう」
あまり表情が豊かな方ではないのでわかりづらいが、シルはぼくに甘い。
今だって付き人はぼくで主人はシルなのに手を差し出しエスコートしてこようとするし、機嫌が悪くなれば好物の甘いものを与えてくる。
手を掴むか迷っていたらぐいっと引っ張られて抱えるようにして地面に降ろされた。
「この近くに甘いものが売っている店はあるか?」
近くにいた兵士にそう聞くと、慌てて他の兵士たちに伝達し皆で店を探すことになった。
買ってくれた濃厚なチョコが中に詰まったパンは、口いっぱいに広がり、脳がとろけるように幸せな味がした。
「美味いか?」
とても優しい目でぼくを見つめる。ぼくが何かを食べているといつもこの目をするから居心地が悪い。
まぁでもシルの言うとおり、今は夢のことは忘れよう。
雷の国への入り口が見えてきた。
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