5 サボり、これがぼくのお仕事
ふっわ・ふわ・パンケーキ!
部屋を出る前に、シルは上着をひっ掴んで出てきた。
それは顔まですっぽりと隠れるほどのフードが付いたローブで、城から出たらすぐに身に着けた。
「バレたら囲まれてめんどくさいからな」
ぼくがその様子をじっと見つめていると、シルが何でもないように答えた。
そうだ、ぼくは別にそこら辺を歩いていてもただの一般人だが、シルは国民に好かれ、顔バレもしている王様なのだ。
ぼく達は街へ出ると、付き人試験の日に通った市場へとやって来た。
相変わらず活気のある雰囲気にぼくは目を輝かせる。
「何か欲しいものがあれば言え。誘ったのはオレだからな、何でも買ってやる」
堂々とした物言いには大人の余裕が漂い、ぼくも稼げるようになったら真似してみようとこっそり考えた。
色々なものがあって目移りするが、ぼくはあの味が忘れられなくて、真っ直ぐあれが売っている屋台へと足を向けた。
「やぁいらっしゃい。パンケーキ1つで良いのかい?」
そう、あの空気のようなパンケーキだ。
シルはいらないみたいで、ぼくの分を1つだけ注文してくれた。
暫くすると焼き立てふわふわのパンケーキをお店のおじさんがぼくに手渡してくれる。
一口頬張るだけで甘くて、柔らかくて、とても幸せだ。
自分でも現金なやつだと思ってしまうけど、これを食べたら暗い気持ちもどこかへ飛んでいってしまう心地だった。
ぼくがにこにこと大事にパンケーキを食べていると、シルが興味深そうにぼくの顔を覗き込んできた。
「それはそれほど美味しいものなのか」
「お兄さんもどうだい?」
興味を示したシルにすかさずパンケーキ屋のおじさんが営業をかける。
「いや、悪いがあまり甘いものは得意ではないのでな……」
断りながらぼくの方へ手を伸ばしたシルは、いつの間にかぼくの頬についていたパンケーキの欠片を摘み自身の口へと運び込んだ。
「ふむ、美味いがやはり甘いな」
周りには見えないが、シルと大きく身長差があるぼくからはシルの一連の動作がよく見えて、美形パワーに不覚にも照れてしまった。
「あ、おい。どこへ行くんだ」
照れたことを悟られる前に駆け足でシルから物理的に距離を取る。
すぐ側の道を曲がると、広場に繋がっていたようで、大きな噴水の周りに観光客や大道芸の人たちがたくさん集まっていた。
「はぁ、いきなり走るな。迷子になりたいのか」
シルもしっかりついてきていたようで、ぼくがまた逃げないようにがっちりと手首あたりを掴まれた。
「もう走り出すなよ? あそこの噴水で休憩するぞ」
引きずられるようにして有無を言わさず連れて行かれる。
ぼくたちは噴水の端に腰掛けた。
座ってからはシルも少しのんびりしたいようで、特に話しかけては来なかったので無言の時間をすごした。
パンケーキも食べ終えて暇になると、自然と近くにいる人たちの会話が耳に入って来る。
「今日材料の調達中にさ、ちょうどいい風が来ていつもよりたくさん採取できたんだよなぁ」
「風のお陰で怪我しなくて良かったねぇ」
「最近よく良い風が吹くから助かってるのよねぇ」
他にも他愛ない話がたくさん聞こえてきたけど、ぼくは今のぼくに響く会話を拾い集めて胸が熱くなった。
嬉しくてとうとう涙が両目から零れ落ちる。
ぼくの仕事はそこまで大変ではなく、普段は達成感もあまり感じられないけど、でもこうやって知らない誰かの手助けができていたのだ。
普通の仕事はできない。でも、ぼくができる仕事もある。
もしかしてシルはぼくが落ち込んでいることに気がついてここへ連れてきてくれたのかもしれない。
ぼくの仕事の意義をこうして伝えたかったのかもしれない。
顔を上げ羨望の眼差しでシルを見つめた。
それなシルも気がつきぼくの方へ顔を向けた。
「うわ、急に何泣いてるんだ」
めちゃくちゃ引かれた。
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